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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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監視対象


ゼインは、油断なくこちらを見据えながら、静かに近づいてきた。


「―そう警戒するな。今日は、争いに来たわけじゃない」


「信じろというのか」


俺の問いに、ゼインは、僅かに肩をすくめた。


「信じなくてもいい。だが、少なくとも、今この場で剣を抜くつもりはない」


ガロが、警戒を解かないまま、俺の隣に立った。フィアも、大剣の柄に手をかけたまま、静かに様子を窺っている。


「話とは」


俺が問うと、ゼインは、僅かに視線を巡らせ、周囲に人気がないことを確認した。


「お前たちが、黒鷲商会を探っていたことは分かっている。……忠告しておく。これ以上、単独で深入りするのは危険だ」


「なぜ、お前がそれを俺たちに教える」


「利害が一致しているからだ、以前と同じようにな」


ゼインは、静かに続けた。


「俺は今、影楔の内部で、思っていた以上に厳しい立場に置かれている」


その言葉に、俺は、レンドルから聞いた話を思い出した。


「監視対象、というやつか」


ゼインの目が、僅かに見開かれた。


「……よく知っているな」


「情報源は明かせない」


ゼインは、しばらく黙り込んだ後、自嘲するように口の端を歪めた。


「そうか。……ならば、隠す意味もないな」


彼は、静かに語り始めた。


「監査での一件以来、俺は、組織内部で"信頼できない駒"として扱われている。手柄を独り占めしようとした、という見方をされているらしい」


「実際は違うのか」


「半分は正しい。……だが、俺には俺の事情がある」


ゼインの声には、隠しきれない苦さがあった。


「事情、とは」


「言えない」


ゼインは、即座にそう答えた。だが、その拒絶の裏に、俺は、隠しきれない切実さを感じ取った。


セラが、静かに口を挟んだ。


「……誰か、大切な人を守ろうとしているんですね」


ゼインの表情が、僅かに強張った。


「…なぜ、そう思う」


「知りません。ただ、そう感じただけです」


セラの言葉に、ゼインは、しばらく沈黙した。やがて、深く息を吐いた。


「……鋭いな、お前たちは」


彼は、それ以上、詳しくは語らなかった。だが、その沈黙こそが、何よりの答えだった。


「ゼイン」


俺は、静かに彼の名を呼んだ。


「もし、お前が本当に、追い詰められた立場にいるなら―俺たちと、手を組む選択肢もある」


ゼインは、驚いたように俺を見た。


「……本気で言っているのか」


「以前も、同じような取引をした。今回も、同じだ。利害が一致するなら、手を組む理由になる」


ゼインは、しばらく黙り込んだ後、静かに首を振った。


「……今は、まだ、その時じゃない」


「なぜだ」


「俺には、俺のやり方がある。……お前たちを巻き込めば、俺の事情まで、余計に複雑になる」


その言葉には、拒絶以上に、何か守ろうとするような響きがあった。


「一つだけ、忠告しておく」


ゼインは、静かに続けた。


「黒鷲商会には、影楔の中でも、上位に近い人間が出入りしている。もし本気で探るなら、生半可な準備では、命を落とすことになる」


「上位の人間、とは」


「それも、今は言えない」


ゼインは、静かに踵を返した。


「待て」


俺は、彼を呼び止めた。


「なんだ」


「お前は、これからどうするつもりだ」


ゼインは、一瞬、足を止めた。


「……分からない。ただ、俺にも、俺なりの決着のつけ方がある。それだけは、確かだ」


そう言い残し、彼は、夜の闇へと姿を消していった。


その後ろ姿を見送りながら、俺たちは、しばらく沈黙していた。


「敵か味方か、本当に分からねぇ野郎だな」


ガロが、低く唸るように言った。


「でも」


セラが、静かに続けた。


「彼、本当に追い詰められてる。……守りたい誰かがいる、っていうのも、多分」


フィアも、静かに頷いた。


「私たちに、忠告までしていったしな」


俺は、静かに拳を握りしめた。


前世で裏切られた記憶は、まだ胸の奥に残っている。だが、今目の前にいるゼインの姿は、単純な敵とは、どうしても言い切れなかった。


「黒鷲商会への潜入、計画を練り直す必要があるな」


俺は、静かに言った。


「ゼインの忠告通りなら、相当な準備が必要だ」


仲間たちが、静かに頷いた。


夜の帝都近郊、複雑に絡み合う因縁と真実が、少しずつ、その姿を現し始めていた。


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