帝都近郊
帝都エルアヴィスへと続く街道は、これまで通ってきたどの道よりも、整備が行き届いていた。
「さすが、帝国の中心地に近づいてきた、って感じだな」
ガロが、周囲の賑わいを見渡しながら言った。
街道には、多くの商隊や旅人が行き交っている。俺たちは、その流れに紛れるようにして、帝都近郊の中核都市―ラウレンへと辿り着いた。
「大きな街ね」
セラが、感嘆の声を漏らした。属州レーヴェクとは比較にならないほどの規模だった。
「レンドルさん、体調は」
「ええ、随分と良くなりました。皆さんのおかげです」
レンドルは、穏やかな笑みを浮かべた。この数週間の旅で、彼の顔色は、見違えるほど良くなっていた。
俺たちは、まず冒険者ギルドのラウレン支部で、正式な手続きを済ませた。
「D級のパーティ、しかも例の飛び級組ですか」
受付の職員が、興味深そうにこちらを見た。噂は、既にここまで届いているようだった。
「厄介だな、こういうのは」
俺は、小さく息を吐いた。
「まあ、慣れるしかないだろう」
フィアが、他人事のように言った。彼女自身、B級としての知名度がある分、注目を浴びることには慣れているのだろう。
ギルドを出た俺たちは、レンドルの資料を頼りに、影楔の拠点に関する情報を、慎重に集め始めた。
「この街のどこかに、拠点があるはずです」
レンドルが、記憶を辿りながら言った。
「表向きは、貿易商会を装っているという噂を、拘束されている間に聞いたことがあります」
「貿易商会、か」
俺は、街の中心部にある商業地区を見渡した。数多くの商会が軒を連ねる中から、それらしき組織を見つけ出すのは、容易な作業ではなさそうだった。
数日間の情報収集の末、俺たちは、一つの商会に狙いを定めた。
「"黒鷲商会"。この街で急速に力をつけてきた、新興の商会よ」
セラが、集めた情報を整理しながら言った。
「取引記録に、不自然な点がいくつも見つかった。表向きの取引額に対して、実際の物流量が、明らかに釣り合ってない」
「影楔の資金洗浄の窓口、といったところか」
俺は、静かに考えを巡らせた。
その夜、俺たちは、黒鷲商会の様子を、遠目から観察することにした。
「―随分と、警備が厳重だな」
ガロが、小声で言った。商会の建物は、表向きは普通の商業施設に見えるが、周囲には、明らかに武装した見張りが配置されていた。
「フィア、気配は分かるか」
「……中に、複数の顕在者がいる。それも、かなりの手練れだ」
俺は、静かに拳を握りしめた。
これまでの拠点とは、明らかに警戒レベルが違う。ここが、影楔の中枢に近い場所である可能性は、高いと言えた。
「すぐに動くのは危険だ。もう少し、情報を集める必要がある」
セラが、頷いた。
「そうね。今度は、慎重に進めましょう」
俺たちが、静かにその場を離れようとした、その時。
「―随分と、熱心な視察だな」
背後から、聞き覚えのある声がした。
振り返ると、そこに立っていたのは――ゼインだった。
「……ゼイン」
俺は、思わずその名を口にした。
ゼインは、静かにこちらへ歩み寄ってきながら、口の端を僅かに歪めた。
「また会ったな、リド。……いや、今回は、随分と派手に暴れ回っているようじゃないか」
俺は、素早く仲間たちと視線を交わした。
―ついに、避けられない再会の時が来た。




