望まぬ評判
帝都近郊を目指す道中、俺たちは、思いがけない形で、自分たちの名が広まりつつあることを知った。
「なあ、聞いたか。北の山で、隔離施設が襲撃されたって話」
宿の食堂で、旅の商人たちが、噂話に花を咲かせていた。
「ああ、聞いた聞いた。なんでも、たった二人の冒険者が、施設の警備を突破して、囚われてた学者を救い出したとか」
「ちょっとした英雄譚だな。だが、どこの誰だか、詳しいことは分からねぇらしい」
俺は、思わず苦笑した。
「―随分と、話が大きくなってるな」
隣で聞いていたフィアも、僅かに肩をすくめた。
「悪目立ちしてるってことか」
「そうらしい」
セラが、少し不安げな表情を浮かべた。
「大丈夫かしら。影楔に、私たちの正体が知られたりしないかしら」
「今のところ、詳細な特徴までは広まっていないようだ。だが……」
俺は、静かに考えを巡らせた。
「用心はしておくべきだろう。噂は、いずれ尾ひれがついて、より具体的な情報に変わっていく」
数日後、次の中継都市に到着した俺たちは、冒険者ギルドで、思わぬ報告を受けることになった。
「リド殿、ガロ殿、セラ殿のパーティ登録、ですね。ギルド本部より、ランク査定の見直しについて、連絡が来ています」
受付の職員が、丁寧に告げた。
「ランク査定の見直し?」
「北の山岳部での一件、そして道中の依頼達成率―これらを鑑みて、通常の昇格ペースを飛び越えた、特例の査定が検討されています」
俺たちは、顔を見合わせた。
「望んでいたわけじゃないんだが」
ガロが、苦笑しながら言った。
「実力が伴っていれば、それは正当な評価です」
職員は、淡々と続けた。
「現在、リド殿・ガロ殿・セラ殿はF級ですが、今回の審査で、F級からD級への"飛び級"が認められる見込みです。……前例のない措置ですが、内容が内容ですので」
セラが、複雑な表情を浮かべた。
「目立ちたくないのに…」
「性分だな、これは」
俺は、静かに呟いた。
前世でも、似たような経験があった。目立とうとしていなくても、成果を積み重ねれば、自然と周囲の評価は追いついてくる。それは、時に喜ばしいことであり、時に、余計な注目を招く危険と隣り合わせでもあった。
「昇格自体は、悪い話じゃない」
俺は、静かに言った。
「D級になれば、受けられる依頼の幅も広がる。帝都近郊への移動も、より円滑になるはずだ」
フィアが、腕を組みながら頷いた。彼女自身は、既にB級として名を知られている身だ。今回の査定の対象ではないが、それでも自分のことのように喜んでいるようだった。
「まあ、実力に見合った評価ってだけの話だ。気に病むことじゃない」
「そうね。……ただ」
セラが、僅かに声を落とした。
「目立てば目立つほど、ゼインや影楔の目にも留まりやすくなる、ということでもあるわ」
その指摘に、俺たちは、揃って表情を引き締めた。
「そうだな」
俺は、静かに頷いた。
「昇格は受け入れる。だが、これまで以上に、慎重に行動する必要がある」
レンドルが、静かに口を開いた。
「私からも、一つ、提案があります」
「なんでしょう」
「帝都近郊での活動は、できるだけ"リド殿たち個人"としてではなく、パーティとしての実績として扱われるよう、意識してはいかがでしょうか。……個人が特定されにくくなります」
なるほど、と俺は思った。老練な学者らしい、堅実な提案だった。
「良い案です。そうしましょう」
俺たちは、翌日、正式にD級への昇格を受理した。
新しいギルド証を手にしたセラが、複雑な表情で、それを見つめていた。
「本当に、望んでなかったのに……」
「巻き込まれ体質、ってやつだな」
ガロが、からかうように言った。
セラは、苦笑しながらも、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。
俺たちの旅は、望むと望まざるとに関わらず、確実に、大きな流れの中へと組み込まれていった。
そしてその流れの先に、避けられない対峙―帝都、そして影楔の中枢が、静かに待ち構えていた。




