再会
洞窟の外に出ると、セラとガロが、緊張した面持ちで待っていた。
「リド! フィア! 無事―」
セラの声が、途中で止まった。
俺たちの後ろに続く、痩せ細った初老の男の姿に、彼女は気づいたのだ。
「お……お父様……?」
セラの声が、震えていた。
男は、よろめきながら一歩を踏み出した。
「セラ……なのか……本当に、セラなのか……」
「お父様……!」
セラは、堰を切ったように駆け出し、父親に抱きついた。
「お父様……! 本当に、生きてたのね……!」
「すまない……すまない、セラ……お前を、一人にしてしまって……」
父娘は、互いを抱きしめ合いながら、声を上げて泣いた。八年もの間、離れ離れになっていた家族の再会だった。
俺は、その光景を、静かに見守っていた。ガロも、目元を拭いながら、感慨深げに頷いていた。
「……本当に、良かったな」
「ああ」
俺は、静かに頷いた。前世で培った知識と経験、そしてこの世界で積み上げてきた絆―それらの全てが、この瞬間のために、確かに意味を持っていたのだと感じた。
しばらくして、落ち着きを取り戻したセラの父―彼は、自らを「レンドル」と名乗った―は、深く頭を下げた。
「皆さんには、何とお礼を言えばいいか……娘を救っていただき、本当にありがとうございます」
「礼には及びません。……あなたを救い出すことは、俺たち自身の目的でもありました」
レンドルは、俺の顔を、しげしげと見つめた。
「……失礼ですが、あなたのお名前は」
「リドです」
「リド殿。……あなたの戦い方、そして先ほどの発言の端々に、只者ではない気配を感じます」
俺は、内心で緊張しながらも、平静を装った。
「買いかぶりすぎです」
レンドルは、それ以上追及せず、代わりに、懐から小さな包みを取り出した。
「これを。……八年間、肌身離さず持っていました。私の研究の、最も核心的な部分です」
セラが、目を見開いた。
「お父様、それって」
「ああ。無属戦役の理論、そして、顕在化の起源に関する、私の最終的な考察だ」
レンドルは、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。
「これを影楔に奪われるわけにはいかなかった。だから、拘束されながらも、決して口を割らなかった」
俺は、その包みを見つめながら、静かに息を呑んだ。
その夜、俺たちは山を下り、麓の小さな町に辿り着いた。宿を取り、レンドルの体調を整えながら、ようやく落ち着いて話をする時間ができた。
「影楔について、あなたが知っていることを聞かせてください」
俺の問いに、レンドルは、静かに頷いた。
「影楔の目的は、大きく分けて二つあります」
「二つ?」
「一つは、無属戦役の理論――自己数値化を、軍事的に利用すること。顕在化に頼らない兵を大量に育成できれば、帝国の軍事力は飛躍的に向上する」
セラが、息を呑んだ。
「もう一つは」
「顕在化の起源そのものを解明し、それを人為的に操作する技術を確立すること。……もし、それが可能になれば」
レンドルの声が、僅かに震えた。
「顕在化を持つ者と持たざる者の身分序列そのものを、意のままに操作できるようになります」
俺は、静かに拳を握りしめた。
「その研究、どこまで進んでいるんですか」
「分かりません。……ただ、私が拘束されている間にも、複数の"実験"が行われていたようです。詳細までは、把握できていませんが」
沈黙が、部屋を包んだ。
「…ゼインという名を、聞いたことは」
俺の問いに、レンドルは、驚いたように顔を上げた。
「……ご存知でしたか」
「知っている、というより、因縁があります」
レンドルは、しばらく考え込んでから、静かに言った。
「ゼインという男は、影楔の中でも、特殊な立場にいるようです。……表向きは幹部候補、しかし、内部では"監視対象"として扱われている、という噂を、耳にしたことがあります」
俺は、静かにその情報を頭の中で整理した。
「監視対象、か」
「詳しい理由までは、分かりません。ですが……もし、彼と関わりがあるなら、慎重に」
俺は、深く頷いた。
窓の外、夜が更けていく。セラは、父の隣で、まだ涙の跡が残る顔に、確かな安堵の笑みを浮かべていた。
一つの再会が、新たな真実への扉を開いた。そして、その扉の先には、さらに大きな謎と、避けられない対峙が待っている。
俺は、静かに、次なる戦いへの覚悟を固めていた。




