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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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突破


「行くぞ!」


フィアの大剣が、先頭の警備兵を薙ぎ払った。俺は、その隙をついて、通路の奥へと突き進んだ。


「侵入者は二名! 増援を呼べ!」


叫び声と共に、次々と兵士たちが押し寄せてくる。俺は、前世の戦術眼を総動員し、最小限の動きで敵を無力化していった。


「フィア、消耗を抑えろ! 長期戦になる」


「分かってる!」


フィアの動きには、以前のような無闇な力の暴発が見られなかった。積み重ねてきた記録と訓練が、確かな成果として表れている。


「―こっちだ!」


俺は、独房が並ぶ通路のさらに奥へと進んだ。より厳重に警備された区画があるはずだ。そこに、セラの父がいる可能性が高い。


角を曲がった先、俺は、一際頑丈な扉に守られた独房を見つけた。扉の小窓から、中を覗き込む。


薄暗い独房の中、痩せ細った初老の男が、壁にもたれかかるようにして座っていた。


「―あの人が」


俺は、息を呑んだ。特徴は、セラから聞いていた父親の描写と一致していた。


「おい! そこから離れろ!」


背後から、警備兵の怒声が響いた。俺は、素早く振り返り、迫る敵の攻撃を受け止めた。


「フィア、この扉を!」


「任せろ!」


フィアが、大剣を扉の隙間に叩き込む。硬い金属音と共に、扉が僅かに軋んだ。


「もう少しだ……!」


だが、その時、通路の奥から、新たな気配が近づいてくるのを感じた。これまでの警備兵とは、明らかに質の違う


「…随分と、派手にやってくれたな」


低く、抑揚のない声。


俺は、その声に、聞き覚えがあった。


振り返ると、そこにいたのは、以前カレイルの地下施設で遭遇した、黒外套の男だった。


「お前は……」


「またお前らか。懲りないな」


男は、得物を構えながら、静かにこちらへ歩み寄ってきた。


「今度は、逃がさない」


俺は、素早く状況を分析した。フィアは扉を破ろうとしている最中で、手を離せない。俺一人で、この男を食い止める必要がある。


「フィア、扉に集中しろ。こいつは俺が」


「大丈夫か?」


「時間を稼げばいい」


俺は、剣を構え、男と対峙した。


「前回は、数の利で逃がしてもらったが……今日は、そう簡単にはいかないぞ」


男が、鋭く踏み込んでくる。俺は、これまで積み上げてきた全ての技術を総動員し、その一撃を受け流した。


「―ほう」


男の声に、僅かな驚きが滲んだ。


「以前より、動きが鋭くなっているな。短期間で、随分と成長したものだ」


「褒め言葉として受け取っておく」


俺は、男の攻撃を凌ぎながら、僅かな隙を探った。前世の経験と、この体で積み上げてきた実戦の記録―そのすべてを頼りに、男の癖を見極めようとする。


背後から、フィアの声が響いた。


「―開いた!」


扉が、大きな音を立てて開かれる。


「セラの父親を頼む、俺は」


その時、俺は、男の一撃を、完全には躱しきれなかった。


「ぐっ……!」


肩に、鋭い痛みが走る。浅くはない傷だった。


「リド!」


フィアの叫び声が響く。


「大丈夫だ、構うな!」


俺は、痛みを堪えながら、なおも男と対峙し続けた。


男は、僅かに口の端を歪めた。


「その負けん気、嫌いじゃない」


そう言うと、男は不意に、構えを解いた。


「今日のところは、退いてやる。……お前らの目的、大方察しがついた」


「なに?」


「その独房の男、大人しく連れて行くといい。……もっとも、それで全てが解決するとは、思わないことだな」


男は、意味深にそう言い残すと、瞬く間に闇の奥へと姿を消した。


「追わなくていいのか?」


フィアの問いに、俺は首を振った。


「今は、それどころじゃない」


俺は、独房から助け出された男――セラの父親らしき人物に、視線を向けた。


「……あなたが」


男は、虚ろな目で、ゆっくりと俺を見上げた。


「……娘は……セラは、無事なのか……」


その声には、確かな父親としての想いが滲んでいた。


「無事です。今、外で待っています」


男の目に、涙が滲んだ。


「そうか……そうか……!」


俺は、静かに男の肩を支えた。


「立てますか。今すぐ、ここを出ましょう」


警報は、まだ鳴り続けている。俺たちは、負傷しながらも、セラの父を伴い、脱出経路へと急いだ。


肩の傷が疼く。だが、それ以上に、確かな達成感が、胸の奥に広がっていた。


―もう少しで、セラとの約束を果たせる。


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