山中の異変
山道を三日ほど進んだ頃、周囲の空気が、明らかに変わり始めた。
「…静かすぎる」
フィアが、警戒を強めながら呟いた。
「モンスターの気配が、ほとんどない」
俺も、その違和感に気づいていた。これまで頻繁に遭遇していた山岳性のモンスターが、この一帯だけ、まったく姿を見せない。
「不自然ね」
セラが、地図を確認しながら眉をひそめた。
「第三隔離施設が近い証拠かもしれない。……モンスターを人為的に排除してるとか」
「あり得る話だ」
俺は、周囲をより一層警戒しながら、足を進めた。
やがて、木々の隙間から、灰色の岩肌が剥き出しになった山の斜面が見えてきた。その中腹に、人工的に掘削されたと思しき、大きな洞窟の入り口が確認できた。
「…あれか」
ガロが、緊張した面持ちで呟いた。
俺たちは、慎重に距離を詰めた。洞窟の入り口には、複数の警備兵が配置されている。これまで見てきた末端の拠点とは、明らかに警戒レベルが違った。
「正面突破は、現実的じゃないな」
「別の入り口を探すか」
俺たちは、洞窟の周囲を、時間をかけて偵察した。
「―こっちに、換気口らしきものがある」
フィアが、山肌の一角を指し示した。人ひとりが、ぎりぎり通れるほどの隙間だった。
「行けそうか」
「私となら、なんとかなる」
俺たちは、日が完全に暮れるのを待ち、換気口からの侵入を試みることにした。
「セラは、外で見張りを。ガロは、この換気口の外で、緊急時の対応を頼む」
「分かった」
「気をつけてね、二人とも」
セラの言葉に、俺とフィアは頷いた。
換気口を抜けると、そこには、これまで見た拠点よりも遥かに広大な内部施設が広がっていた。
「……予想以上だな」
フィアが、小声で呟いた。
石造りの通路が、複雑に入り組んでいる。等間隔に配置された灯りの下、時折、警備の兵士が巡回する足音が聞こえてきた。
俺たちは、壁伝いに慎重に進みながら、拘束された人々が収容されていると思しき区画を探した。
「――あっちだ」
微かな声、複数の話し声が聞こえてくる方向へと、俺たちは進んだ。
鉄格子の並んだ、独房のような区画。俺は、息を潜めながら、格子の中を確認していった。
やせ細った学者風の人物、怯えた表情の人々。彼らの多くが、ここに長く囚われていることが、一目で分かった。
「――セラの父親らしき人物は」
俺は、慎重に確認を続けた。だが、なかなか該当する人物が見つからない。
「もっと奥かもしれない」
フィアの言葉に、俺は頷いた。
その時。
「―誰だ!」
鋭い誰何の声が、通路の奥から響いた。
巡回の兵士に、見つかった。
「フィア!」
「分かってる!」
俺たちは、素早く物陰に身を隠したが、既に複数の足音が、こちらに集まりつつあった。
「侵入者だ! 全区画、警戒態勢に入れ!」
施設内に、けたたましい警報が鳴り響き始めた。
「まずいな」
俺は、拳を握りしめた。
計画にはなかった、早すぎる発覚。だが、ここまで来て、引き返すわけにはいかない。
「フィア、突破するぞ」
「望むところだ!」
俺たちは、迫りくる警備兵たちに向かって、覚悟を決めて踏み出した。




