告発
翌朝、俺たちは、レイストンが滞在する宿へと向かった。
「本当に、これでいいんだよな」
ガロが、緊張した面持ちで確認してくる。
「ああ。証拠を示し、正式な機関への告発を促す。それだけだ」
宿の前には、護衛と思しき兵士が数名、警戒に当たっていた。
「レイストン殿にお目通り願いたい」
俺が申し出ると、兵士は怪訝な顔をした。
「連絡は」
「ない。だが、これを見せれば、話は変わるはずだ」
俺は、ガロが持つ告発状の写しの一部を提示した。兵士は、しばらく躊躇った後、宿の中へと取り次いだ。
しばらくして、俺たちは応接間へと通された。
「何用だ」
現れたレイストンは、恰幅の良い、脂ぎった中年男だった。ガロの拳が、僅かに震える。
「久しぶりですね、レイストン殿」
ガロの声は、想像以上に落ち着いていた。俺は、その成長に、静かな誇らしさを感じた。
レイストンは、ガロの顔を見て、一瞬、明らかに動揺した。
「……お前、まさか、ガロか。生きていたのか」
「ええ、おかげさまで」
ガロは、静かに証拠の束を差し出した。
「これは、あなたが帝国軍在籍時、複数回にわたり物資を横流ししていた記録です。私が告発した際、あなたは逆に、私を濡れ衣で陥れた」
レイストンの顔から、みるみる血の気が引いていった。
「な……何の話だ。言いがかりも―」
「言いがかりかどうかは、正式な機関で判断してもらいましょう」
俺が、静かに口を挟んだ。
「今回は、あなたに私的な報復をするつもりはありません。この証拠は、正式に帝国軍の監査機関へ提出させていただきます」
「な……」
「ただし」
俺は、レイストンの目を見据えた。
「もしここで、素直に非を認め、然るべき償いをする意思があるなら、告発の内容に、多少の情状酌量の余地を加えることも検討します」
レイストンは、しばらく葛藤するような表情を浮かべていたが、やがて、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。
「……もう、いい。認める。……全て、私が仕組んだことだ」
その一言に、応接間が、静まり返った。
「なぜ、ガロを陥れた」
俺の問いに、レイストンは、力なく答えた。
「あの時、私自身も、上からの圧力に追い詰められていた。物資の横流しは、私の独断ではない。……もっと上の人間からの、指示だった」
「その人間の名は」
レイストンは、一瞬躊躇ったが、やがて、震える声で名を告げた。
「……当時の、帝都補給局長官だ。名は、ドレイファス」
セラが、素早くその名を書き留めた。
ガロは、レイストンを見下ろしながら、長い沈黙の後、静かに口を開いた。
「……もう、いい」
「ガロ?」
「恨みは、消えねぇ。だが、これ以上、この男に構ってる暇はねぇ。俺には、会いに行くべき娘がいる」
ガロの声には、深い、しかし確かな決意が滲んでいた。
「証拠は、正式な機関に提出する。それで、十分だ」
俺は、静かに頷いた。
「レイストン殿。この件は、正式に監査機関へ報告させていただきます。以後の対応は、そちらでご判断を」
俺たちは、レイストンを残し、宿を後にした。
外に出ると、ガロが、大きく息を吐いた。
「……終わったな」
「終わった、というより、始まったんだと思う」
俺は、静かに言った。
「ドレイファスという新たな名前が出てきた。この件も、帝都の腐敗と、無関係ではないかもしれない」
セラが、深刻な顔で頷いた。
「影楔との繋がりも、あり得るわね」
ガロは、しばらく沈黙していたが、やがて、小さく笑った。
「上等だ。どこまでも、腐った根っこを掘り返してやる」
俺たちは、互いに顔を見合わせ、静かに頷き合った。
一つの因縁に、確かな区切りをつけたガロの表情には、これまでにない晴れやかさが浮かんでいた。
「さて、北へ向かうか」
ガロの言葉に、俺たちは、静かに歩き出した。
セラの父を救い出すため、そして、まだ見ぬ真実に近づくため。旅は、新たな手がかりと共に、次の段階へと進んでいく。




