カレイルの町
カレイルは、想像していたよりも、ずっと静かな町だった。
小さな教会と、こぢんまりとした市場。旅人が一晩の宿を求めて立ち寄る程度の、目立たない中継地。だが、その静けさこそが、隠れ拠点として選ばれた理由なのかもしれない。
「拠点は、町の外れにある古い倉庫、って話だったな」
ガロが、情報屋から得た地図を確認しながら言った。
「表向きは、廃業した商会の倉庫らしい。だが、夜になると、人の出入りがあるとか」
俺たちは、町に到着してすぐ、目立たないよう別々に情報収集を始めた。セラは市場で世間話を装いながら、ガロは酒場で、フィアは冒険者ギルドの支部で。
夕刻、宿の一室に集まった俺たちは、それぞれの成果を共有した。
「市場の商人によると、あの倉庫、月に数回、夜間に荷馬車が出入りしてるらしいわ。荷の中身は誰も知らない」
セラが、羊皮紙にメモを取りながら報告した。
「酒場じゃ、あの倉庫に近づくなって噂が流れてた。何年か前、興味本位で覗いた若者が、二度と戻らなかったって話もある」
ガロの報告に、俺たちは顔を見合わせた。
「ギルドの支部でも、似たような話を聞いた。あの倉庫周辺は、依頼の対象からも外されてる」
フィアの言葉に、俺は静かに頷いた。
「つまり、公然の秘密として、危険視されている場所というわけだ」
「潜入するには、絶好の条件とも言えるな」
ガロが、不敵に笑った。
「どういうことだ」
「誰も近づかない場所なら、逆に警備は薄いはずだ。表向きの脅しだけで、人払いができてるんだからな」
俺は、ガロの読みに一理あると感じた。
「だが、油断はできない。影楔は、末端の情報屋にすら容赦しない組織だと聞いている。倉庫の警備が薄くとも、内部に潜む脅威は別だ」
俺たちは、夜の潜入計画を詰めていった。
「セラは、周辺で見張りを。何かあれば、すぐに合図を送ってくれ」
「分かった」
「ガロとフィアは、俺と共に内部へ。役割分担は…」
俺は、これまでの経験を踏まえ、細かく指示を出していく。フィアは、その様子を興味深そうに見つめていた。
「……随分と、手慣れた指示の出し方だな」
「そうか」
「まるで、何十人もの部下を率いた経験があるみたいだ」
図星を突かれ、俺は僅かに言葉を詰まらせた。
「……剣闘士として、多くの試合を分析してきた経験の応用だ」
フィアは、それ以上追及しなかった。だが、その目には、これまでと同じ、微かな疑問の色が浮かんでいた。
深夜。月明かりだけを頼りに、俺たちは倉庫へと近づいた。
外観は、確かにただの廃倉庫にしか見えない。だが、近づくにつれ、微かに、人の気配が漏れ聞こえてきた。
「…内部に、複数の気配がある」
俺は、声を潜めて仲間に伝えた。
「数は」
「少なくとも、四、五人」
ガロが、拳を握りしめた。
「潜入か、それとも強行突破か」
「まずは潜入だ。情報を集めることが優先だ」
俺たちは、倉庫の裏手にある、小さな通気口を見つけた。
「ここから」
「狭いな……」
ガロが、自分の体格を見て顔をしかめた。
「俺とフィアが先に入る。ガロは、外で異変があった際の対応を頼む」
「分かった」
俺とフィアは、慎重に通気口から倉庫の内部へと侵入した。
薄暗い倉庫の中、木箱が整然と積み上げられている。だが、その奥――地下へと続く階段が、微かな灯りと共に見えた。
「地下、か」
俺は、静かに呟いた。
「行くぞ」
フィアが、大剣の柄に手をかけながら、俺の隣に並んだ。
地下へと続く階段の先に、俺たちが求める真実の一端が、確かに待ち受けているはずだった。




