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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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情報屋


ヴェルダの街に、一週間ほど滞在した頃。


「手がかりが見つかったかもしれない」


セラが、興奮を隠しきれない様子で宿に駆け込んできた。


「本当か」


「ギルドの依頼で知り合った情報屋が、"学者組合特別調査部"について、何か知ってるみたい。ただし……」


「ただし?」


「タダじゃ教えてくれないって。それなりの金額を要求された」


俺は、ガロと顔を見合わせた。


「報酬なら、ここ最近の依頼で貯まってる。惜しむ場面じゃない」


「賛成だ」


フィアも、迷わず頷いた。


「私も出す。仲間のためだ」


「フィア、お前まで」


「顕在種の起源に関わる話かもしれないんだろう。他人事じゃない」


彼女の言葉に、俺は静かに頷いた。この短い旅の中で、フィアは既に、単なる同行者以上の存在になりつつあった。


情報屋との接触は、その日の夜、街の外れにある薄暗い酒場で行われた。


「―お前らが、噂の新人冒険者パーティか」


情報屋は、フードを目深に被った、年齢不詳の人物だった。声色から、恐らく男だろうと推測できる。


「学者組合特別調査部について、知っていることを教えてほしい」


俺が単刀直入に切り出すと、情報屋は、僅かに笑ったような気配を見せた。


「随分と危ない橋を渡ろうとしてるな、お前ら」


「危ない、とは」


「あの組織、表向きは学術調査部門だが、実態は違う。……帝国内でも一部の人間しか知らない、諜報活動の隠れ蓑だ」


セラの表情が、強張った。


影楔(えいけつ)と、関係が?」


情報屋は、一瞬沈黙した。


「…その名前、どこで知った」


「知っているのか」


「知らないとは言わせない反応だったな、今の」


情報屋は、低く笑った。


「まあいい。教えてやる。学者組合特別調査部は、影楔の下部組織の一つだ。表向きは危険思想の学者を"保護"するという名目で、実際には拉致・監禁・尋問を行っている」


俺は、静かに拳を握りしめた。セラの父も、この組織に連れ去られたのだろう。


「その拠点は」


「帝都近郊、いくつかの都市に点在している。だが……全ての拠点情報を、俺一人が把握しているわけじゃない」


「知っている範囲でいい」


情報屋は、一枚の羊皮紙を取り出した。地図の写しだった。


「この街から北東、二日ほどの距離にある町―カレイルに、比較的小規模な拠点がある。警備は薄いが、情報の質は高いはずだ」


セラが、地図を食い入るように見つめた。


「本当に……ここに、お父様の手がかりが」


「保証はできない。だが、可能性はゼロじゃない」


情報屋は、報酬を受け取ると、静かに席を立った。


「一つ、忠告しておく」


「なんだ」


「影楔は、末端の情報屋にすら容赦しない組織だ。俺がお前らに情報を渡したことが知られれば、俺も、お前らも、無事では済まない」


情報屋は、フードの奥から、鋭い視線をこちらに向けた。


「潜入するなら、慎重にな。……特に、お前」


その視線は、なぜか俺に向けられていた。


「俺、とは」


「妙な気配がする。ただの冒険者にしちゃ、な」


情報屋は、それ以上何も語らず、酒場の闇へと姿を消した。


「……なんだったの、今の」


セラが、不安げに呟いた。


「分からない。だが、有益な情報だった」


俺は、地図を丁寧に折りたたんだ。


「カレイル、か。……行ってみる価値はある」


ガロが、拳を鳴らしながら頷いた。


「善は急げだ。明日には出発するか」


フィアも、静かに頷いた。


「私も、行く」


俺は、三人の顔を見つめた。


「ああ。全員で行こう」


宿に戻る道すがら、俺は情報屋の最後の言葉を、静かに反芻していた。


―妙な気配がする。


前世の記憶を持つ者として、この体には確かに、"通常ではない"何かが宿っているのだろう。それがどこまで、周囲に感知されているのか。


窓の外、夜空に浮かぶ月を見上げながら、俺は静かに気を引き締めた。


新たな手がかりへの期待と、深まりゆく謎への警戒。二つの感情を抱えたまま、俺たちの旅は、

次の町―カレイルへと向かっていく。


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