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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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暴走の兆し


その夜、宿の一室に、四人で集まった。


「話す、と言ったな」


俺が切り出すと、フィアは、少し躊躇いがちに口を開いた。


「……子供の頃から、たまにあったんだ。力が、自分の意志を超えて溢れる瞬間が」


「具体的には」


「戦闘中、興奮したり、追い詰められたりすると、顕在値が急激に跳ね上がる。最初は喜んでた。強くなれてる、って。でも」


フィアは、自分の手のひらを見つめた。


「使った後、決まって身体が悲鳴を上げる。今日みたいに、膝が折れることもある。……最近は、その頻度が増えてる気がする」


セラが、真剣な表情で尋ねた。


「顕在種特有の症状、って言ってたわよね。詳しい原因は分かってるの?」


「分からない。……というより、顕在種自体、詳しい研究がほとんどされてない。差別と畏怖の対象だから、まともに調べようとする学者もいない」


フィアの声には、隠しきれない苦さがあった。


俺は、静かに考えを巡らせた。前世で培った知識、そしてこの世界で積み上げてきた自己数値化理論―それらを組み合わせれば、何か糸口が見えるかもしれない。


「フィア、一つ提案がある」


「なんだ」


「お前の力の使用状況を、俺の記録法で管理してみないか」


フィアは、怪訝な顔をした。


「記録法?」


「顕在化を持つ者は、通常、自分の成長を数値で自覚できる。だが、その数値の"急激な変動"そのものは、意識的に管理されていないはずだ。俺たちがやっている自己数値化―鍛錬や戦闘の記録を細かく残し、傾向を分析する手法を、お前の症状の観察に応用する」


セラが、目を輝かせた。


「それ、いいかもしれない。感覚だけで判断してると、悪化の兆候を見逃しがちだから。数字で傾向を追えれば、暴走が起きる条件が見えてくるかもしれない」


フィアは、しばらく黙り込んでいたが、やがて、小さく頷いた。


「……分かった。やってみる」


「今日の戦闘についても、詳しく聞かせてくれ。どのタイミングで、どんな感覚があったか」


フィアは、記憶を辿りながら、当日の戦闘の様子を語り始めた。セラが、それを丁寧に羊皮紙へ書き留めていく。


「―二体目のガーゴイルを斬った時、頭の中で"何か"が弾けるような感覚があった。それ以降、力の制御が、いつもより難しくなった」


「引き金になるような、特定の感情はあるか」


「……怒り、かもしれない。誰かに顕在種だと蔑まれた直後は、特に酷い」


俺は、静かにその情報を頭の中で整理した。


「感情の昂りと、力の暴走が連動しているなら、まず取り組むべきは、感情そのものの制御よりも"感情が昂った時の対処法"を、体に覚えさせることかもしれない」


「対処法?」


「呼吸の仕方、意識の逸らし方。前世で、感情的になりがちな弟子たちに教えていた方法がある」


俺は、思わず口を滑らせたことに気づいた。だが、もう遅かった。


「……前世?」


フィアが、怪訝な顔でこちらを見た。


セラとガロも、こちらを振り向いて固まっている。


俺は、一瞬迷ってから、静かに答えた。


「言葉の綾だ。……昔、似たようなことを教える立場にいた、という意味だ」


「…その歳でか?」


フィアは、それ以上追及しなかった。だが、その目には、微かな疑問の色が残っていた。


「…まあ、いい。とにかく、やってみよう。おまえの言う"記録"ってやつを」


その夜から、俺たちは新たな取り組みを始めた。フィアの戦闘記録、感情の変動、力の使用状況―全てを数値化し、傾向を探る作業。


数日が経ち、ある程度のデータが集まった頃、俺はセラと共に、一つの傾向を見出しつつあった。


「フィアの暴走、単純な感情の昂りだけが原因じゃないかもしれない」


「どういうこと?」


「戦闘時間が長引くほど、暴走の兆候が強くなる。……まるで、顕在化の力そのものが、時間経過と共に"制御を失っていく"ような」


セラの表情が、強張った。


「それって……」


「まだ確証はない。だが、もしこの傾向が正しければ、根本的な原因は、感情ではなく、フィアの顕在化の力そのものにあるのかもしれない」


窓の外、旅の道中に見る夜空は、属州レーヴェクで見たものと、どこか違って見えた。


新たな謎、新たな仲間、そして、まだ見ぬ危険。


積み上げてきたものを胸に、俺たちの旅は、確実に、次の段階へと進んでいた。


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