遺跡調査の護衛
「―というわけで、この依頼、一緒にどうだ」
翌朝、俺はフィアに、昨日受理した依頼書を見せた。
「近郊の森の遺跡調査、護衛任務……悪くないな」
フィアは、依頼書に目を通しながら頷いた。
「あそこの遺跡、噂じゃ古代顕在民の遺構だって話だ。私も、前々から気になってた」
「詳しいのか」
「詳しくはない。だが……顕在種の起源が、古代顕在民に関わってるんじゃないかって、勝手に思ってるだけだ」
フィアは、少し照れくさそうに言った。彼女なりに、自分の出自に関わる何かを、探し求めているのかもしれない。俺は、それ以上は深く聞かなかった。
「決まりだな。四人で行こう」
セラとガロも、それぞれ準備を整え、俺たちは森へと向かった。
依頼主は、学者組合に所属する初老の研究者だった。
「近年発見された、小規模な古代遺構でしてな。護衛をお願いしたいのは、内部調査の間、モンスターの襲撃から我々を守ってもらうことです」
「了解した」
森の奥、木々に埋もれるようにして、苔むした石造りの遺構が姿を現した。入り口には、見覚えのある紋様が刻まれている。
「―これは」
俺は、思わず足を止めた。
「知ってるのか、この紋様」
フィアが、怪訝な顔で尋ねてきた。
「……いや、どこかで見た気がしただけだ」
俺は、誤魔化しながら遺構の中へと足を進めた。
内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。研究者たちが慎重に足を進める中、俺たちは周囲を警戒しながら随行した。
「来るぞ!」
ガロの声とともに、闇の奥から、複数のモンスターが姿を現した。遺跡ガーゴイル―古代顕在民文明の守護兵器の成れの果てと言われる、石像型のモンスターだった。
「三体か」
俺は、素早く状況を分析した。
「ガロ、正面を頼む。セラは後方で研究者たちの護衛。フィア―」
「言われなくても分かってる」
フィアは、既に大剣を構えていた。
「派手にやらせてもらう」
彼女の身体が、淡く輝き始めた。顕在化の力が、全身に漲っていく様が、はっきりと見て取れた。
「行くぞ!」
フィアが、まっすぐにガーゴイルへと突撃する。大剣の一撃が、石の身体を容易く砕いた。
圧倒的な、力任せの強さだった。俺の積み上げてきた分析型の戦い方とは、対照的な戦闘スタイル。
だが、俺はその戦いぶりの中に、僅かな違和感を覚えた。
(…今の一撃、必要以上に力が乗っていた)
フィアの動きに、微かな制御の乱れが見える。まるで、力そのものが、彼女の意志を超えて暴走しかけているような。
「フィア、無理をするな!」
俺は、思わず声をかけた。
「うるさい、黙ってろ!」
フィアは、苛立たしげに叫び返しながら、二体目のガーゴイルへと斬りかかった。今度の一撃は、更に過剰な力が込められていた。石の破片が、勢いよく飛び散る。
「―ッ、あ……」
一瞬、フィアの膝が、僅かに折れた。
「フィア!」
俺は、素早く駆け寄った。彼女は、肩で荒く息をしながら、額に汗を滲ませていた。
「な、なんでもない……」
「なんでもない顔じゃないぞ」
セラも、心配そうに駆け寄ってきた。
「今の、力の使い方、明らかにおかしかった」
フィアは、しばらく黙り込んでいたが、やがて、小さく呟いた。
「……時々、あるんだ。力が、自分の制御を超えて溢れる瞬間が」
彼女の声には、隠しきれない不安があった。
「顕在種特有の症状、ってやつなのかもしれない。……でも、詳しいことは、私自身にも分からない」
俺は、静かにその言葉を受け止めた。かつて自己数値化理論で、無属としての限界と向き合ってきた経験が、脳裏をよぎる。
「その症状、もう少し詳しく聞かせてくれないか」
「……なんで」
「もしかしたら、力になれるかもしれない」
フィアは、驚いたようにこちらを見た。
その時、残る一体のガーゴイルが、俺たちに向かって突進してきた。
「―話は後だ!」
ガロの声とともに、俺たちは態勢を立て直し、最後の一体を協力して撃破した。
戦いの後、研究者たちは無事に調査を終え、感謝の言葉と共に報酬を支払った。
森を出る道すがら、俺はフィアに向き直った。
「さっきの話、詳しく聞かせてくれ」
フィアは、しばらく躊躇っていたが、やがて、静かに頷いた。
「……分かった。おまえになら、話してもいい気がする」
夕暮れの森に、四人の足音が静かに響いていた。新たな謎と、新たな絆が、確かにこの旅の中で紡がれ始めていた。




