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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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紫の瞳


「―だから、私は嘘なんてついてない!」


女性冒険者の声が、ギルドの入り口に響き渡る。彼女を取り囲む男たちは、下卑(げび)た笑いを浮かべていた。


「へえ、じゃあ本当に、単独であのオーガの群れを片付けたって言うのか?」


「そうだ」


顕在種(けんざいしゅ)の嬢ちゃんは、口だけは達者だな」


その言葉に、彼女の表情が、瞬時に凍りついた。


「……今、なんて言った」


「聞こえなかったか? "顕在種"だって言ったんだよ」


男の一人が、わざとらしく彼女の瞳を覗き込んだ。


「その紫の目、生まれつきだろう。あんたら顕在種は、力だけは人並み外れてるが、その分、頭のネジも人並みじゃないって話だ。単独でオーガの群れなんて、盛った話に決まってる」


「……ッ」


彼女の拳が、震えながら握りしめられる。俺は、その光景を、静かに見つめていた。


前世で、何度も似たような場面を見てきた。理不尽な偏見に晒され、それでも黙って耐えるしかない者たちの姿を。


「やめておけ」


俺は、思わず声をかけていた。


男たちが、揃ってこちらを見る。


「なんだ、お前は」


「彼女の実力を疑うなら、自分で確かめればいい話だ。憶測だけで侮辱するのは、ただの臆病者のすることだ」


場の空気が、一瞬にして張り詰めた。


「は?…なんだと」


男の一人が、俺に詰め寄ろうとした瞬間。


「あんたに、庇ってもらう筋合いはない」


鋭い声が、俺を制した。


紫の瞳の女性が、こちらを睨みつけていた。


「な―」


「余計な口を挟むな。私は、自分の力で片をつける」


彼女は、男たちに向き直った。


「オーガの討伐証明なら、ここにある」


彼女は、懐から小さな魔石を取り出した。オーガ特有の、赤黒い結晶だった。


「単独討伐の証だ。文句があるなら、ギルドの鑑定士にでも見せてやる」


男たちは、気まずそうに顔を見合わせた。証拠を前に、それ以上の言いがかりをつける口実を失ったのだろう。


「……ふん。今日のところは、これで勘弁してやる」


男たちは、捨て台詞を残して去っていった。


静けさが戻った入り口で、彼女は俺に向き直った。


「―さっきのは、余計なお世話だ」


「そうか。だが、放っておけなかった」


「なぜ」


「理不尽な物言いは、見過ごせない性分でな」


彼女は、しばらく俺を睨みつけていたが、やがて、小さく息を吐いた。


「……フィアだ」


「リドだ」


「あんたも、冒険者か?」


「登録したばかりだ。こっちは仲間のセラとガロ」


セラとガロが、それぞれ会釈する。フィアは、警戒するような目で俺たちを見回した。


「顕在種だからって、腫れ物扱いはごめんだぞ」


「そのつもりはない」


俺は、静かに言った。


「実際、俺自身も、似たような扱いを受けてきた」


「……あんたが?」


フィアの目に、僅かな興味の色が浮かんだ。


「無属だ。力の数値が持てない者への蔑称(べっしょう)、知っているだろう」


フィアは、意外そうに目を見開いた。


「無属が、剣闘士上がりの冒険者……? しかも、F級には見えない立ち回りだったな、さっきの」


「なんだ?見ていたのか」


「まあな」


フィアは、僅かに口の端を上げた。それは、これまでの警戒した表情とは違う、初めて見せる笑みだった。


「悪くない目をしてる。……気に入った」


「それは光栄だ」


「今度、依頼で組んでみるか。私は基本、単独行動だが……お前らなら、少しは頼りになりそうだ」


セラとガロが、驚いたように顔を見合わせた。


「随分と、気安いのね」


セラが、小声で呟いた。


フィアは、そんなセラの視線に気づいたのか、少し照れくさそうに視線を逸らした。


「……別に、誰にでもこんなことは言わない。ただ、あんたの目が、嘘をついてるようには見えなかっただけだ」


俺は、静かにその言葉を受け止めた。


前世で失った信頼関係を、この世界で少しずつ、また積み上げている実感があった。


「よろしく頼む、フィア」


「ああ」


彼女は、力強く頷いた。


紫の瞳に、確かな意志の光が宿っていた。


【用語ミニ解説】

顕在化(けんざいか) ―― 個人の熟練度や体力が”数値”として自覚できるようになる、この世界の力の仕組みそのもの。

顕在種(けんざいしゅ) ―― 顕在化の力が生まれつき異常に強く出る、稀な体質の人々。強大な力を持つが、その異質さゆえに差別されている。

無属(むぞく) ―― 顕在化の力を全く持たない者への蔑称。数値化された才能がないとされ、見下されている。

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