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裏切られた英雄、奴隷剣闘士として本物の絆を選び直す  作者: CHARA
第二部「金の影、諜報の網」
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属州の再建


ヴィクトル失脚から半月が経った。


属州レーヴェクには、帝都から派遣された臨時管理官のもと、少しずつ秩序が戻りつつあった。だが、長年積み重なった腐敗の後始末は、一朝一夕には終わらない。


「リド殿。改めて、此度の件、感謝申し上げる」


臨時管理官―初老の文官は、俺に丁重に頭を下げた。奴隷剣闘士に対して、これほど礼を尽くす貴族階級の人間を、俺はこの世界で初めて見た。


「過分なお言葉です」


「いや、正当な評価だ。……単刀直入に言おう。金級以上の剣闘士には、自由民への昇格請願権を認める方向で、帝都と調整を進めている。リド殿は、その筆頭候補だ」


自由。


その言葉の重みを、俺は静かに噛み締めた。


「セラやガロも、同様の扱いを?」


「記録係のセラ嬢については、既に自由民としての身分証発行の手続きを進めている。ガロ殿については……元帝国軍人としての名誉回復の申請も、同時に進めることになるだろう」


俺は、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


控室に戻ると、セラとガロが待ち構えていた。俺は、管理官から聞いた話を、そのまま伝えた。


「……本当に?」


セラの声が、微かに震えていた。


「ああ。お前の身分証、正式に発行されるそうだ」


セラは、しばらく言葉を失っていた。それから、静かに涙を拭った。


「やっと……お父様の名前を、堂々と名乗れる」


ガロも、拳を握りしめながら、感慨深げに頷いた。


「名誉回復の申請、か。……娘に、胸を張って会いに行けそうだ」


三人で顔を見合わせ、それぞれに込み上げるものを噛み締める。長い戦いの果てに、ようやく手にした、確かな前進だった。


だが、喜びに浸る間もなく、セラが表情を引き締めた。


「リド。実は、もう一つ報告があるの」


「なんだ」


「興行組合の古い記録から、"学者組合特別調査部"の詳細を、少しずつ辿れるようになった。……この組織、帝都近郊の都市に、拠点を持っているみたい」


俺は、静かに耳を傾けた。


「帝都近郊、か」


「ええ。属州レーヴェクにいる限り、これ以上の調査は難しい。もし本気で父の行方を追うなら……」


「属州を出る必要がある、ということだな」


セラは頷いた。


「ガロも、それでいいか」


俺が尋ねると、ガロは即座に頷いた。


「もとより、いつまでもここに留まるつもりはなかった。娘に会うにも、いずれは帝都方面に向かう必要がある」


俺は、二人の顔を見つめた。


「なら、決まりだ。自由民としての手続きが済み次第、属州レーヴェクを発つ」


その日の夜、俺は一人、闘技場の外れに立っていた。かつて奴隷剣闘士として目覚めた、この場所。


積み上げてきた数字は、確かに一つの自由を掴んだ。だが、旅の先には、まだ見ぬ危険と、解くべき謎が待ち構えている。


影楔(えいけつ)という組織の正体。セラの父の行方。ゼインが抱える切実な事情。そして―いずれ向き合わなければならない、アルドレア王国での過去。


「何、一人で感傷に浸ってんだ」


背後から、ガロの声がした。振り返ると、セラも一緒だった。


「明日には、色々と忙しくなる。今のうちに、羽根伸ばしとけよ」


「ああ」


俺は、小さく笑った。


三人並んで、夜空を見上げる。


「新しい土地、か」


セラが、静かに呟いた。


「怖くないと言えば嘘になる。でも」


「でも?」


「あなたたちとなら、大丈夫な気がする」


俺は、静かに頷いた。


前世で失ったものは、もう戻らない。だが今、目の前には、新しい絆と、新しい目的地がある。


積み上げてきたものを胸に、俺たちは次の旅路へと踏み出す。


属州レーヴェクの夜空の下、三人の決意は、静かに、しかし確かに固まっていた。


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