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目覚めた側近


作戦を決めた翌日、俺たちのもとに、恐れていた報せが届いた。


「聞いたか。昨夜、記録室で何者かに襲われた側近が、目を覚ましたらしい」


看守が、興味本位でそんな噂を漏らしていく。俺は表面上平静を装いながら、内心では強い緊張を感じていた。


「証言は」


セラが小声で尋ねる。


「まだ詳しくは分からない。……でも、時間の問題かもしれない」


牢の中、俺たちは再び額を突き合わせた。


「奴が俺たちの顔を覚えていれば、すぐにでも兵が動く」


ガロが険しい顔で言った。


「気絶させる直前、顔を見られたか」


「……見られたと思う。暗かったが、完全に隠しきれたとは言い切れない」


俺は素早く思考を巡らせた。選択肢は多くない。


「セラ、監査人への接触は、予定より早める必要があるかもしれない」


「でも、まだ準備が」


「分かっている。だが、側近の証言が先に伝われば、俺たちは動く前に拘束される」


沈黙が落ちる。誰もが、事態の切迫を理解していた。


その時、思いがけない人物が牢の前に現れた。


「―話がある」


低く抑えた声。振り返ると、そこにいたのは、ゼインだった。


「なぜ、ここに」


俺は警戒を強めながら問うた。ゼインは、周囲を素早く見回してから、声を潜めた。


「昨夜の一件、聞いたか」


「一件、とは」


「白々しい真似はよせ。記録室の側近が襲われた件だ」


心臓が、大きく跳ねた。だが、ゼインの表情には、意外にも敵意は見えなかった。


「お前たちの仕業だろう」


「証拠でもあるのか」


「ない。だが、確信はある」


ゼインは、僅かに口の端を歪めた。


「面白いことに、その側近―ヴィクトルの私兵の中でも、特に評判の悪い男だ。裏帳簿の管理にも関わっていたという噂もある」


「……なぜ、それを俺に話す」


「監査の一環だ、と言っておこう」


ゼインの目が、鋭くこちらを見据えた。


「俺は、ヴィクトルの不正を洗い出すために、ここに送られた。お前たちの目的も、恐らく同じ方向を向いている。……違うか?」


俺は、慎重に言葉を選んだ。


「もし、そうだとしたら」


「…手を組む選択肢もある」


意外な提案だった。ガロとセラが、驚いたようにこちらを見る。


「お前を、信用しろというのか」


「信用しろとは言わない。だが、利害は一致している」


ゼインは、静かに続けた。


「側近の証言は、俺が握り潰す。監査の名目で、事情聴取を俺が担当することになっている。……その代わり」


「代わり?」


「お前が何者なのか、いずれ必ず話してもらう」


ゼインの目に、抑えきれない探求心が滲んでいた。


俺は、しばらく沈黙した。ゼインの申し出は、渡りに船だった。だが、同時に危険も孕んでいる。この男は過去に師である俺を裏切った。信用は出来ない。

だが…


「……分かった」


俺は、静かに答えた。


「側近の件、頼む」


「取引成立だ」


ゼインは、僅かに笑みを浮かべた。それは、これまで見せてきた冷たい表情とは、少し違う質のものだった。


「大興行、楽しみにしている。……お前が、どんな"逆転"を見せるのか、な」


その言葉に、俺は僅かに息を呑んだ。まさか、演出の件まで、既に把握しているのか。


ゼインは、それ以上何も言わず、踵を返して去っていった。


その後ろ姿を見送りながら、ガロが低く唸った。


「……あの野郎、一筋縄じゃいかねぇな」


「ああ」


俺は静かに頷いた。


セラが、不安げな表情で言った。


「信用して、大丈夫なの?」


「分からない。だが、少なくとも今は、利害が一致している」


俺は、窓の外に広がる曇り空を見上げた。


前世で裏切られた記憶が、胸の奥でちくりと痛む。だが同時に、あの男の目の奥に、単なる敵意以上の何かが宿っていたことも、確かに感じ取っていた。


―ゼインは、何を考えている。


答えの出ない問いを抱えたまま、大興行までの日々は、確実に、そして急速に、過ぎていった。


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