表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の命は私が守る。-タイムリープに巻き込まれた受付嬢の記録-  作者: 矢口 みつぐ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/12

10:運命のトリガー

玉座のひじ掛けにはアルトの背丈と同じくらいの巨大な剣が立てかけてある。

漆黒の鎧を全身に纏い、全身から黒い禍々しい霧のようなものが沸き立っている。

兜からちらちらと見える真紅の眼が瞬きもせずアルトをじっと見つめていた。


「遅かったな。トリガーよ。」

不安定な抑揚、男と女の声を混ぜたような嫌悪感を与えるような声で魔王が言った。

「遅い?トリガー? 何のことだ。」

俺は鞘から手を離さず、いつでも剣を抜けるように柄に指をかけた。

「そうか。お前は記憶がないのか。

 よかろう。

 お前を殺す前に教えてやろう。」

魔王はそう言うと脚を下ろし片手を剣に乗せた。


「お前がここに辿り着いたのは2回目だ。

 とは言っても覚えてはおらんだろうがな。」

「2回目?」

「そう。2回目。

 前回お前がここに来た時、私の手でお前を殺した。」

荒唐無稽な話だ。だが、魔王の言葉には確かな実感がこもっていた。

「な・・・何を言っている?!」

アルトは剣の柄をぐっと握った。

「嘘は言ってはおらん。

 お前は『死に戻り』をしているのだよ。」

「・・・・・」

「未確定だった未来が、我の死の確定する未来へ切り替わる。

 原因は不明だったが、その度に過去へ巻き戻してやり直した。

 そして前回、お前を殺した時にはっきりと分かったのだ。

 お前の『死』こそが、我が運命を決定するトリガーであるとな」


訳が分からない。

何もかもが信じがたい。


「一体・・・何を言っている・・・?」


魔王はグイっと上半身を乗り出して言った。


「すでに数十回、お前は『死に戻り』をしておるのだ。」


「な・・・。」

すべてが狂っている。俺はただ、彼女との約束を守るためにここにいる。

アルトはごくりと唾を飲んだ。

「お前はただのトリガーだ。

 誰かはわからんがお前以外に我を倒す者がいる。

 わからないのであれば、皆殺しにすればいい。

 だから、お前を殺さずに王国軍と街を滅ぼしたのだ。

 そして、これからするのは『答え合わせ』だ。

 今からお前を殺し、我の未来が変化するか確認させてもらう。」


魔王が立ち上がる。その圧迫感だけで、肺の空気が押し潰されそうだった。


「トリガーなる者よ。剣を抜け。」


・・・・・


キンキンキン・・・

玉座の間に剣と剣がぶつかる金属音が響く。


小手で強化された俺の剣が魔王の一撃を受け止め、ブーツの魔力が回避を補助する。

彼女が準備してくれた装備がなければ、初撃で首が飛んでいたはずだ。

だが、相手は次元が違った。

一撃ごとに強烈な衝撃が全身を襲う。

鎧の継ぎ目から血が滲み、呼吸が荒くなる。

今の俺は、ただのソロ冒険者に過ぎない。

それでも、俺を信じて彼女がオーダー託した者として、ここで倒れるわけにはいかなかった。


20分。ただの人間が、魔王の猛攻をしのげる限界の時間だった。

まともな息継ぎすら許されない。

肺が焼けつくように痛い。


「人間の癖にやりおる。」

魔王が笑みを含んだ声で言う。


ガキン!

と剣と剣がぶつかり鍔迫り合いの体制になる。

「ぐっ!」

アルトは脚を踏ん張り耐える。

その時、

ボン!

胸元で爆発音が起きたかと思うと、アルトが吹き飛び、背中から壁にぶつかる。

「ぐはっ!」

メキッと胸元から音がしゲホッと血を吐いた。

魔王の左手から黒い煙が立ち昇っている。


アルトは胸元を見ると、胸当てがべコリとへこんでいた。

くそっ。あばらを持っていかれた。


「大人しく殺されれば痛い目に合うこともなかろうに。」


アルトは剣を床についてよろよろと立ち上がる。


「ふざ・・・けるな・・・。」


そして正面に剣を構えた。


「お前はどうしてそこまで戦う。

 何がそこまでお前を突き動かす?」


アルトはペッと血の唾を吐き出す。


「受けたオーダーには・・・責任があるんでな。

 諦めたり投げ出したりはしない。」


意識が遠のく。握力も限界だ。

もう長くは戦えない。

だが、久方ぶりに深く息を吸い込み、全身の血を沸騰させる。

なら、全力で。

すべてをここに置いていく。


ドンと地面を蹴って飛び出す。


「ぬうっ?!」


魔王が剣を構えた一瞬の隙、俺は魔王の剣を跳ね上げた。


「トリガー?

 お前を倒すのは俺じゃない?

 ふざけるな。

 そんな未来は俺が捻じ曲げてやる!

 お前を倒すのは、俺だぁぁぁ!!!!!」


身体を回転させ、渾身の力を込め、がら空きになった胸元へ渾身の力を込めて剣を叩きつける。


そして振りぬいた。


ガ・・・ッ


「グウッ!」

魔王が大きくノックバックする。

そして胸の鎧が粉々に砕け飛んだ。


「終わりだ!魔王!」


アルトは魔王にぶつかるほど大きく踏み込みながら魔王の胸に向かって剣を突き刺す。


魔王の胸へ剣を突き刺した―――その瞬間、凄まじい衝撃波が俺の身体を吹き飛ばした。


床をゴロゴロと転げ、視界の端に何かが落ちる。血に濡れた、あの規定集だ。パラリと開いたしおりのページ。


魔王の胸元が赤黒い光を発する。


「癇に障るトリガーよ。

 次だ!次はお前もろとも皆殺しにしてやる!」


赤黒い光が魔王を包む。


魔王が時間操作の魔法が発動させた。


「待てっ!!!」

剣を振り下ろすが、障壁に弾かれ、俺の手から剣が離れた。


魔王の身体が赤黒い光の中に溶けてく。

頭、腕、脚、胴体

が徐々に霧のように消えていき、やがて真っ赤な脈打つ心臓だけが残された。

最後に残った心臓の中心から真っ白なまばゆい光を伴った魔法陣が現れる。

そして、過去へ続く扉が現れた。

その扉が音も無く開いていく。


が、扉はほんの少し開いたところで動きを止めた。


「?!!!!

 なぜ開かぬ!!!」

魔王の声に焦燥が混じる。


光の扉の前に小さな紙が浮かんでいた。


それは、


彼女のしおり。

薄汚れた古いしおり。


それが扉の前に浮かんでいた。


「これは・・・特異点!

 そうか!そういうことかぁぁぁ!

 トリガーァァァ!!!

 キサマ!どこでこれを!!!」

姿なき魔王が叫ぶ。


今です。


どこか懐かしい声。

はっきりと『声』が聞こえた。


俺は床に落ちた剣を拾うと一気に間合いを詰め、剣を大きく振りかぶった。

剣は障壁に阻まれることなく、魔王の心臓を一刀両断した。


「おのれーーーーーっ!

 トリガーーーーーーァァァッ!!!!」


そして。

一切の音も無く。

魔王の心臓が爆ぜた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ