11:エピローグ:君の命は、俺が守る
魔王の心臓が爆ぜ、焼失した瞬間、
光の扉がまばゆい光を発し開いた。
俺の意識をまばゆい光が貫きホワイトアウトした。
魔王の断末魔、崩れ去る城、
数十回の彼女≪セシリア≫のリープの記憶。
そして彼女の最期の微笑み。
すべてが強烈な熱となって俺の脳裏を焼き、次の瞬間。
―――世界は再構築された。
目を開けると、そこは見慣れたギルドの玄関前だった。
開館を待つ冒険者たちの喧騒。
その中に俺はいた。
空から降り注ぐ、あまりにも平穏な朝の光。
「・・・夢、じゃない。」
俺を助けてくれた小手もブーツも胸当ても剣もない。
皮の胸当ての内側を探るが、冒険者カードもない。
あの日に・・・戻って来たのか・・・。
俺は自分の手を見つめた。あの戦いで刻まれた傷はない。
だが、この胸の奥には、数十回の死と、彼女が積み上げてきた全ての記録が鮮明に残っている。
俺だけが、知っているのだ。
街が蹂躙され、仲間たちが死に、そして彼女が俺のために消えていったことを。
鐘の音が鳴り響く。
ギルドが開館し、冒険者たちがなだれ込む。
俺は人混みを避け、あの懐かしいカウンターへと歩み寄った。
そこには、おそらく『俺のことを覚えていない』彼女が座っている。
「すみません。冒険者登録したいんですけど」
俺がそう告げると、彼女はいつも通りのプロフェッショナルな笑みを浮かべた。
あの、俺の心を何度でも蘇らせてくれた、優しい微笑みだ。
「はい、承知いたしました。では、こちらのカードを作成しますので、必要事項を記入してください。」
机の下から真っ白な登録用紙を取り出し、滑らかに差し出す。
かつて渡された『ギルドの規定集』は、今は彼女の手元にない。
あの日、彼女は俺にそれを受け取らせた。自分の命と未来のすべてを継承するために。
だが、今の彼女はまだ、俺を知らない。
俺は震える手でペンを取り、用紙に名前を書き込んだ。
彼女は手際よくカードを作成し、それを俺に返しながら、不意に首を傾げた。
「あの・・・どこかでお会いしたことは、ありませんか?」
彼女の瞳が、少しだけ迷いを含んで俺を捉える。
何も覚えていないはずの彼女が、無意識のうちに俺という存在を認識している。
俺はカードを受け取り、その重みを噛み締めるように強く握りしめた。
「いいえ。・・・でも、今日からこの街で、お世話になる予定です」
俺は彼女の瞳を見つめ返し、誓うように続けた。
「セシリアさん。困ったことがあれば、いつでも相談してください。・・・今度は、俺が力になりますから」
「どうして私の名前を?」
彼女は不思議そうに、けれど今までにないほど楽しげに笑った。
その笑顔を守るために、俺はここに戻ってきたのだ。
ポケットに忍ばせた、あの血に濡れた思い出―――かつて彼女から託された規定集の代わりに、俺は今、真っ白な未来を手にしている。
運命は、もう二度と繰り返さない。
今度は、俺が君の命を守る番だ。
俺はギルドの扉を背にし、新しい冒険の幕を開けるために歩き出した。
彼女の視線が、俺の背中を優しく追いかけているのを感じながら。
fin




