タイトル未定2026/06/03 18:36
朝目覚めた流花は、着替えを済まして顔を洗った。
八月も終わりに近づいているが、流花が通う大学はまだ長期休み中。
長期休みに入り、渚と田中の三人でファミレスの洗い場のバイトに通っていた流花だが、今日は大学のインターンの為、バイトを休んで渚と田中と市役所に出かける日だった。
流花は狭い台所に立って、朝食の準備を始めた。
ふと、流花の部屋から携帯の着信音が聞こえてきた。
流花はガスの火を消し、テレビがある居間を横切り、自分の部屋へ入って行った。
居間では敷布団の上で、タオルケットにくるまっていた母親が眠っていた。
自分の部屋に入った流花は、充電器に刺さっていた携帯を抜き取った。
画面には「マスター」の文字があり、思いがけない早朝からのマスターのに電話にドキドキしながら、流花は電話に出た。
「おはようございます。マスターどうしたんですか?」
流花が言うと、マスターは一呼吸置いてから言った。
「……朝イチで、流花の声が聞きたくなりました。と言うのは、駄目ですか?」
……やだ、マスターったら、私のマネをしている!
流花がbar「ジェシカ」のバイトを休んでいた時、流花は突然店に行った。
驚くマスターに「……マスターに会いたくなりました。と言うのは、駄目ですか?」と、流花は言った。
流花は笑いだし、電話の向こうでも、マスターは笑っていた。
「マスターもう、病院にいるんですか?」
「はい。病院の外で電話をかけています。流花は、今日もバイトですか?」
「今日は、バイトを休んで大学の友達とインターンに行ってきます」
「インターン。何処に行くんですか?」
「市役所です。初めてだから、緊張するなぁ」
そんな流花に、マスターは笑った。
「終わったら、会いませんか?」
「インターンが終わったら……はい!今日一日頑張れます!」
マスターと流花は、待ち合わせ場所と時間を決めた。
通話が終わると、流花は部屋を出た。
居間では母親が敷き布団の上に座り、電子タバコを吸っていた。
流花は母親を横切り、台所に戻って朝食の準備を続けた。
そんな流花の背中を見ながら、母親が流花に聞いてきた。
「電話、誰?男?」
ボウルに、卵を割ろうとした流花の手が止まった。
「……うん」
大きな息をついた、母親が言った。
「男ができたか。同じ大学の子?」
「違うよ」
「じゃあ、何処で見つけたの?」
「バイト先のマスター」
「マスター?あんた、barでバイトをしているの?」
「週末だけ」
「ふ〜ん」
電子タバコを空い終えた母親は、更に聞いてきた。
「マスターって、どんな男?」
「どんなって……母さんから見たら、堅物な感じな人だよ」
流花の言葉に、母親は大きな声で笑った。
流花は話題を、そらすように言った。
「朝ご飯作ったけど、食べる?」
「たまには、食べるか」
母親は布団をたたみ、布団を部屋の隅に追いやった。
小さなテーブルの上に、流花が作った朝食が乗った。
流花と母親は、テーブルを挟んで朝食を食べだした。
こんな風に母親と向き合って食事をするのは、何年ぶりだろう。
食事をしながら流花は、目の前の母親を見た。
母親も流花と同じく、背が高かった。
流花は母親の背を、いつの間にか越していた。
線が細い流花に対して、母親は肩幅が広く、がっしりした体格をしていた。
セミロングのパーマがかかったヘアースタイルで、寝癖もあり髪の毛が広がっていた。
「流花、その相手と結婚するの?」
突然の母親の言葉に、流花はお茶碗と箸を持ったまま呆然とを見つめていた。
「……結婚?何言っているの?私、まだ学生だよ?」
「でも、少しは考えているんだろ?」
……結婚?私が?
流花は黙ったまま、ご飯を食べだした。
「結婚するもしないも流花の自由だけど、ここで一緒に暮らすのは御免だわ」
「それは、私も御免だ」
流花の言葉に、母親は笑った。




