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タイトル未定2026/06/03 18:35

 実家の診療所についたマスターは、玄関横のカーポートにある院長の車の隣に、自転車を入れ自転車に鍵をかけた。

 背負っていたリュックをおろし、リュックから携帯を出した。

「会う時間がなくても、マメに電話やラインとかしてる?そう言うの大事だぜ」

 居酒屋で一緒に飲んだ、馬場の言葉を思い出す。

 携帯をしばらく眺め、息をついたマスターは、通話ボタンを押した。

 通話を終えカーポートから出ると、玄関の掃き掃除をしていた院長の診察室で仕事をする看護師の久保由美くぼゆみが、マスターに挨拶をした。

「おはようございます」

 由美の存在に全く気がついていなかったマスターは、由美の挨拶で初めて由美の存在に気がつき、慌てて挨拶をした。

「久保さん……おはよう」

 マスターに初めて「久保さん」と呼ばれ、由美は笑顔になった。

「先生、朝から彼女さんに電話をしたんですか?」

 マスターは何も言わず、由美に爽やかな笑顔を見せてやり過ごした。


 診察室の奥の窓際で、マスターの診察室で仕事をする看護師の園田亜美そのだあみは、備品の補充をしていた。

 玄関の掃き掃除を終えた由美がやってきた。

「亜美ちゃん!」

 由美の声に驚いた亜美は、振り返った。

「そんなに慌てて、どうしたの?」

「今、先生と話ができた!」

「そう、良かったね」

 顔を上げず、備品の補充をしながら亜美は言った。

 そっけなく言う亜美に、由美は不満げに言った。

「亜美ちゃんは先生の診察室で仕事をするから、先生と話ができるけど、私は話なんてできないからね」

「そうだけど……で、何を話したの?」

「話って言うかぁ……先生、久保さんって呼んでくれた!」

 亜美は、思わず吹き出した。

「そんなの、いつものことでしょ」

「亜美ちゃんはね。私は、いつものことじゃないよ。先生、カーポートの中で電話をしていた」

「電話くらいするでしょ」

「そうだけど、あれきっと、彼女さんに電話をかけたんだよ」

「彼女?どうしてそんなことが言えるの?電話の相手、彼女とは限らないでしょ」

「先生何も言わないけど、あれは絶対彼女に電話をかけたと見た!先生の彼女……う〜ん、気になるぅ。先生に聞いても、笑顔ではぐらかすしいぃ。でも、先生の爽やかな笑顔で、今日一日頑張れる!」

「わかった。先生の彼女がどんな彼女か、詮索しよう」

「なによ。亜美ちゃんだって、先生の彼女を気にしているじゃん」

「はいはい。由美ちゃん、備品の補充してね」

「はぁい」


 診療時間となり、患者が診療所に入って来る。

 マスターは、小児科を掲げているが、十代の学生も診察していた。

 院長は内科と皮膚科を専門に診ていた。

 夜中に発熱をして、水分も食事も取れていない幼稚園児を連れてきた保護者が、マスターの診察室に入って来た。

 マスターは、亜美に点滴の指示を出した。

 亜美は患者の幼稚園児を別室に連れていき、看護師長の紫野緑むらさきのみどりが患者を見守る中、亜美は点滴の準備をした。

 緑の補助を受けながら、亜美は患者に点滴を打った。

 処置が終わると、亜美は一旦診察室に戻り、待合室に行って新たな患者の名前を呼んだ。


 患者が絶えずやってきて、午前の診療を終えたのは、午後の十二時半を回っていた。

 マスターは机のイスに座ったまま大きく伸びをして、腕を伸ばしてストレッチを始めた。

 和やかな雰囲気で、リラックス状態のマスターに、亜美は声をかけた。

「先生、お疲れさまでした」

「あぁ……お疲れさま」

「もう、昼休憩ですね」

「そうですね。しっかり、休憩をとってください」

「はい。先生、休憩時間に彼女に会いに行くんですか?」

「はい?」

「久保さんが、今朝先生が電話をしているところを見たって、言っていたから」

 マスターは、今朝のことを思い出していた。

 ……さて、ここをどうやって乗り切るか。

 ふとマスターは、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「そうなんです。彼女に、電話をかけていました」

「やっぱり!彼女って、どんな方ですか?」

「知りたいですか?」

「はい!」

 マスターは立ち上がって、診察室から廊下の方に顔を出した。

 しばらくすると、緑が診察室に入って来た。

「先生、何ですか?」

 マスターに呼ばれた緑が、聞いてきた。

 マスターは、緑の隣に立って亜美に言った。

「ボクの彼女です」

 亜美は開いた口がふさがらない感じになり、ぽかんとしていた。

 マスターと緑は診察室から出て行き、亜美は何も言えず立ち尽くしていた。

 診察室を出ると、それまで笑いを堪えていた緑が笑いながら、マスターに言った。

「先生、冗談が言えるようになったんですね。大人になったんですね」

「いつまでも、子供扱いをしないでください」

「で、何故私を先生の彼女に仕立て上げたの?」

 言いながら緑が待合室の長椅子に腰掛けると、マスターも緑の隣に座った。

「看護師達が、ボクの彼女がどんな人かしつこく聞くので……」

「それで、私が先生の彼女」

 少し、呆れたように言った緑は続けた。

「ねぇ、いっそ流花ちゃんのこと看護師達に教えたら?」

「そんな……教える必要なんて、ないですよ」

「そうだけど、あの子達先生にしつこく聞いてくるわよ」

「そうですね。でも、まぁ好きにさせておけば良いんじゃないですか」

「流花ちゃんと付き合えるようになったら、余裕こいちゃって!」

 マスターと緑は、楽しそうに笑いあった。

 そんな二人を、亜美がそっと見つめていた。

 ……もしかして本当に、先生と師長はできている?

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