タイトル未定2026/06/03 18:32
翌朝、少しアルコールが残った身体でマスターは寝室を出て、洗面所に向かった。
歯を磨いて顔を洗い、洗濯機を回してからキッチンに入って行った。
キッチンのテーブル席で、大門がトーストをかじっていた。
大門の目の前のお盆には、ベーコンエッグとヨーグルトと牛乳が入ったコップが乗っていた。
「大門おはよう」
「おはようございます。七海、昨日は遅かったね」
「昨日は、知り合いと会っていました」
「遅くなるなら、電話をしなきゃ駄目でしょ。七海が帰ってくるのずっと待っていたんだから」
「……すみません……。夕飯は、どうしましたか?」
「おまちさんが野菜を切ってくれたから、炒めてたべたよ」
「じゃあ、このベーコンエッグ。自分で作ったんですか?」
「これくらい、作れるよ」
マスターは冷蔵庫から牛乳を出して、コップに注いだ。
「七海、立ったまま飲んじゃ駄目でしょ!」
キッチンの前で、立ったまま牛乳を飲もうとしたマスターに、大門は鋭く言った。
「……すみません」
言いながらマスターは、テーブルを挟んだ大門の前に座った。
ベーコンエッグを突きながら、大門は言った。
「今日から学校が始まるけど、七海知ってる?」
「えっ、今日から学校?」
「やっぱり、忘れてる!今日は、午前中で授業が終わるよ」
「午前中!おまちさん、知っているかな?」
「大丈夫。おまちさんに、ちゃんと言ったから」
……これじゃ、ダメ親父の典型じゃないか。
マスターは小さくため息をついて、牛乳を飲んだ。
大門は台所で、使った食器を洗った。
「七海、パン焼こうか?」
「牛乳だけで、良いです」
「ちゃんと食べなきゃ、駄目だよ」
「食欲がないんです」
お皿を洗いながら小さくため息をつく大門の背中を見たマスターは、大門が少しずつ自分から離れていく寂しさをを感じていた。
寝室に行き、マスターは、それまで着ていたタンクトップと短パンから、紫色のティーシャツとジーパンに着替えた。
リビングに行くと、ベランダに出て洗濯物を干した。
洗濯物を終えリビングに戻ると、大門はソファーに座って、テレビを見ていた。
いつでも出ることが出来るように、大門の傍らにはランドセルと水筒が置いてあった。
「お待たせしました」
大門はソファーから降りて、ランドセルを背負った。
マンションの前では、既に游太が大門を待っていた。
今朝は珍しく游太の側に、游太の母親がいた。
游太の母親は、小柄で華奢な女性だった。
「おはようございます」
游太の母親が言い、マスターも挨拶を交わした。
「おはようございます」
大門と游太は「行ってきます!」と声を交わし、まるで冒険に出かけるように肩を並べて元気良く歩きだした。
自転車のサドルにまたがったマスターは游太の母親に「行ってきます」と言うと、大門と游太を追いかけるように自転車をこぎ出した。
大門と游太とマスターを游太の母親は、優しい眼差しで見送っていた。




