タイトル未定2026/06/03 18:30
若菜が務める幼稚園は、現在夏休み中。
午前中はプールを開放しているので、朝から園内は賑やかだった。
園児達が居なくなりホッとするのも束の間、水田若菜はプール周りの掃除を始めた。
浮き輪やビート板が収納されている倉庫の掃除をした後、ジャージのズボンの裾を膝上まであげ、裸足になってデッキブラシで、シャワーが置いてある床を掃除した。
日焼け対策はしているものの、嫌でも日焼けはする。
プール掃除を終え、職員室でようやく昼休憩となった。
お弁当を食べ終えたあと、若菜はぼんやり携帯を眺めていた。
午前中のプール掃除で、すっかり疲れてしまった。
休憩の後も午後の勤務を控えている為、体力の温存をしていた。
昼の休憩時間が終わり、若菜は担当している教室に行き、担任の先輩保育士と一緒に園児達が使うおもちゃの消毒をした。
「仕事は、もう慣れた?」
おもちゃの消毒をしながら、先輩保育士が聞いてきた。
「だいぶ慣れてきました。園児達可
愛いけど、背中を思い切り叩かれたり、背中に乗られたりして常に身体が痛いです」
「体力勝負の世界だからね。水田先生は、園児達に人気だよね。いつも園児達に囲まれているね」
先輩保育士の言葉に、若菜は嬉しくなった。
少し声を潜め、先輩保育士は若菜に聞いてきた。
「水田先生って、彼氏いる?」
「はい。います」
「やっぱり!水田先生、可愛いからいると思った。どんな彼?」
「ここの園児達です」
「もぉ〜」
先輩保育士は、呆れながら笑った。
「で、本当はどうなの?」
「残念ながら、いません」
「そうなの!」
「短大の時は、資格を取るのと卒業出来るのに必死でしたから。保育士になったら仕事に必死で、彼氏どころではありません」
「わかるけど、もったいないなぁ」
「そうですか?今、とっても楽しいです」
先輩保育士は、若菜を眩しい目で見つめていた。
保育園の業務が終わり、若菜はすっかり暗くなった繁華街をとぼとぼ歩いた。
空は暗かったが、周りは昼間に負けず明るく人通りが絶えなかった。
若菜の身体は疲れ切っていたが、気持ちは、仕事を終えた達成感があった。
若菜は目についたコーヒーショップに入った。
外の景色が見える、カウンター席に案内された。
乾燥フルーツが乗ったスコーンと、アイスカフェオレとシフォンケーキをオーダーした。
スコーンを食べ、ミニサイズのシフォンケーキを、アイスカフェオレとゆっくり食べた。
目の前の歩道を、歩く人波を眺める。
学生時代、一人でこんなおしゃれな店に入ることなんて、できなかった。
保育士となり、社会人になった今、若菜は一人でふらりと店に入り、食事ができるようになった。
食事が終わり店を出て、きらめく夜の繁華街を歩く。
若菜は一人だったが、淋しくはなかった。
繁華街のネオンが、まるで若菜を包み込むようだった。
気がつくと、若菜はbar「ジェシカ」の店の前に立っていた。
週の真ん中とあり、店内はひっそりとしていて、真っ暗だった。
若菜はしばらく、懐かしい気持ちになってbar「ジェシカ」を眺めた。
……全ては、ここから始まったんだ。
マスターと出会い、ちはるたちと出会って。
……アタシは、マスターに夢中になった。
何処を探しても、マスターのような男性は現れない。
そんなマスターは若菜の親友、流花を射止めた。
嬉しい気持ちと、正直せつない気持ちが交差する。
でも、大好きな二人が一緒になってくれた。
……シロちゃんは、二度と現れない素敵な男性と一緒になれたなんだよ!
この幸せを、手放しちゃダメだからね!
若菜は夜空を仰ぎ、心の中で大きく叫んだ。
そして、前を見つめた。
……今は、愛だの恋だのと、言っているときではないわ。
さぁ、行こう!明日も、小さな可愛いアタシの恋人達が待っている!
「はたをかかげよ!
こぶしをあげよ!」
明日に向かって行くように、元気良く若菜は歩きだした。




