タイトル未定2026/06/03 18:44
月曜日の朝、マスターが勤務する診療所の受付で、申し送りが行われていた。
医師の院長とマスター。
看護師の緑と亜美と由美。
技師一名と受付勤務の女子二名の全職員が揃った。
申し送りは、直ぐ終わった。
院長は、マスターと緑に言った。
「午後から、出かける。午後は頼んだぞ」
それだけ言うと、院長は二人から離れた。
「うわぁ、午後は、忙しくなりそうだな」
マスターは、ため息をついた。
ため息をつくマスターに、緑は笑いながら言った。
「おまちさんが言っていたわ。院長は昼前には出かけるから、一緒にお昼をどうですかって」
「緑さん、院長が出かけるって知っていたんですか?」
「おまちさんから、聞いたわ」
「おやじの奴、ボクには何も言わない」
「院長の前だと、息子に戻るのね。流花ちゃんの前でも、そんな態度をとっているの?」
マスターは何も言わず、笑うだけだった。
その時、亜美と由美はそっと顔を見合わせていた。
顔を見合せた亜美と由美を、緑は横目でそっと見つめた。
緑は流花の名前を、亜美と由美にわざと聞こえるように言ったのだった。
……これであの子達、先生の彼女探しにヒートアップさせるわね。
緑はマスターの敵か見方か、わからないような笑みを静かに浮かべた。
マスターの彼女探しを、一番楽しんでいるのは緑だった。
診察室の奥の窓際で、亜美と由美は備品の補充をしていた。
声をひそめながら、亜美は由美に言った。
「由美ちゃん、聞いた?」
「聞いた、聞いた。師長が言っていた、るかちゃん。あれ絶対……」
亜美と由美は、顔を見合わせて声をそろえた。
「彼女だよね~」
ため息交じりに、亜美が言った。
「……るかちゃんかぁ。どんな字なんだろう」
「益々気になるね。るかちゃん……どんな彼女かなぁ。師長なら、知っているよね」
「でも、絶対教えてくれないよ」
「先生も、笑ってごまかすよね」
しばらく黙ったまま、亜美と由美は備品の補充を続けた。
突然ポツリと、亜美が言った。
「どんな彼女か、見てみたい」
「私も!」
亜美と由美は、顔を見合わせニヤリと笑った。
その笑みは、まるでマスターの敵キャラのようだった。
午後休憩になり、マスターと緑は診療所内から自宅に通じるドアを開けマスターの実家に行った。
台所では家政婦のまちこが、昼ごはんを作っていた。
まちこは振り返り、マスターと緑を労った。
「お疲れ様でした。直ぐ、お昼にしましょう」
「手伝います」
そう言った緑に、まちこは言った。
「何言っているの!疲れているんだから、束の間の休息だと思いなさい」
マスターと緑は顔を見合わせ、肩をすくめた。
テーブルの上に、まちこが作った料理が並び、マスターと緑とまちこはテーブルを囲むように、テーブル席に座った。
量は軽めだったが、味は一流だった。
食事をしながら、会話が弾む。
話題の中心は、やはりマスターと流花だった。
早速まちこが、マスターを問い詰めた。
「しばらく流花ちゃんに会っていないけど、流花ちゃん元気?」
「大学が忙しいけど、元気です」
マスターとまちこの会話に、緑が入った。
「先生は流花ちゃんと、付き合っているんですよ」
マスターがぽポカンとしている間に、まちこは声を上げた。
「まぁ、そうなの〜流花ちゃん、良い子だものね。私のお気に入りよ。あんな良い子は、どこを探してもいないから、絶対手離しちゃ駄目よ!」
緑も、まちこの言葉に乗った。
「そうよ!おまちさんの言う通り。先生、いずれは流花ちゃんと一緒になるんでしょ」
「もちろん、式も挙げるんでしょ。流花ちゃん、どんなドレスが似合うかしら。やっぱ、白いドレスかしら」
「王道の白も良いけど、水色とか紫色のドレスを着た流花ちゃんを見てみたいな。意外と、ピンクや黄色も似合うかも」
「良いわね〜若いって」
「何言っているんですか!まちこさんだって、まだまだ若いです」
「そうぉ〜二十代に、見られるかしら」
緑とまちこは、声を上げて笑った。
……何なんだ、これは。ちっとも休息になっていない。
マスターは黙ったまま、食事をしていた。
食事が終わり、マスターはリビングのソファーで寝ていた。
緑とまちこは、食事をしたテーブル席でお茶を飲んで、くつろいでいた。
昼休憩の終わる時間が、後一時間と迫っていた。
「坊っちゃん私は、買い物をしながら、坊っちゃんのマンションに行きますね」
「大門を、宜しくお願いします」
緑は、懐かしむように言った。
「大門君、大きくなったんでしょうね」
「小学三年生に、なりました。最近では、ボクが大門に叱られています」
緑とまちこは、声を上げて笑った。
「じゃあ、行きますか」
マスターを先頭に、マスターと緑は院内へ。
まちこは、マスターのマンションへ。
それぞれの地に、向かった。




