4・調査へ
急に逆向きに歩く事になっても、レガンが的確に指示を出してくれた事で前の休憩場所へ戻るまではスムーズに事が運んだ。勿論、状況が分からない村の皆からは不満や疑問の声が出ない訳ではなかったが、事情は後で話すといえばそれ以上騒ぐ者はいなかった。
戻って来た前の休憩場所は、崖という程ではなくても比較的高さのある段差の下の影となっていて日を遮るには丁度いい場所だった。夕方ちかくにそこに来たのなら確実にその日の寝床となっていただろうくらいには広さもあって、いろいろと条件が良かった。
戻る前の場所からはそれなりの距離があったがらげんなりした顔をする者は多かったものの、現地についてからその理由を説明すればとりあえず納得はしてもらえた。
「そういう訳で、いきなり全員でこの辺りの住民と会った場合、全員捕まる可能性があるから一旦ここまで戻る事にしたんだ」
こちらは戦える者が少なく、女子供や老人が多い。相手が集落なら、会えばまずは拘束されると思ったほうがいい。
「それは分かる。で、どうする気だ?」
その意見はレガンだが、前のように攻撃的ではなく、疑問としては当然の内容だ。
「とりあえず少人数で調べてみて、攻撃的ではなさそうだったら接触してみる感じかな。少なくともこの辺りの者はナグラックの事なんて分からないから俺達を捕まえて奴らに差し出すって事はないだろうし」
「誰が行くんだ?」
その疑問も当然で、ただそれはほぼ分かっていての確認だろう。
「まずは俺とシオールかな。交渉になったら俺がやるし、戦力的な面も含めて偵察ならシオールが適任だ」
「確かにな。だが、二人だけは少し危なくないか?」
ジェアのその言葉に、レガンが口を開く。
「俺も行くか?」
表情からみてこちらを疑ってついてくるというのではなく、本当に戦力としてついてくるつもりなのは分かったが、それでも今回彼を連れていくのはまずい。
「いや、レガンはこっちで皆を守っていて欲しい。何かあった場合の戦闘指示はレガンが出してくれ」
彼は一瞬、気のせいか僅かに口元に笑みを浮かべた。だがすぐに表情を引き締めて言う。
「分かった、皆の守りは任せろ」
この面子で戦闘面だけを見ればレガンは優秀だ。意地を張らずに協力してくれるなら、こちらは信頼を返せばいい。
それに、彼に対して言いたい事は昨日言った。少しでも彼の頭にあの言葉が残ってくれていれば思い込みでの暴走はしないでくれる筈だった。
だがそこで、意外な方から声が上がる。
「私もついていこう」
「え?」
手を上げてそう発言したのはシェノンで、当たり前に皆驚いたのだが。
「多分、完全ではないがこの辺りの連中の言葉も大体わかるぞ」
「それってつまり、ここらに住んでる人達の事も知ってるって事ですか?」
「私が知っているのは少し前の情報だがな」
アルスはため息を吐きつつ彼女に頭を下げる。
「では、お願いします」
もっと早くいってくれればいいのに、という思いはぬぐえないが交渉の可能性を考えればこれで彼女に頼まない選択肢はない。
「なら私も行くわ、彼女の護衛役として」
だが、それに続いたマーナの発言にアルスは固まる。ここはどう説得すべきかと考えていたら、まるでこちらの思惑を見透かしたかのようにシェノンはにっこり笑ってマーナに言った。
「貴女には皆の方にいてもらっていいだろうか。何かあった場合、パトラを飛ばして知らせようと思っているんだが、貴女にはあの子を受ける役をやってもらいたい。なにせ、あの子がここの皆の中で一番慣れているのは貴女だから」
「え、えぇ……そういう事なら仕方ない、ですね」
本当に一番慣れているのかは怪しいが、シェノンの護衛として傍にいた分、マーナが一番あの梟の近くにいる機会が多かったのは確かだ。マーナはその言葉にはちょっと嬉しそうにして、おかげですんなりと了承してくれた。
アルスは胸をなでおろす。
「それに今回の私はあくまで交渉時の駒だから、出番になるまでは隠れているつもりだ。護衛がいなくても問題ない」
確かにそれでいいかもしれない。彼女にはこちらが見える位置で隠れていてもらって、住人が出てきて交渉の余地もなく捕まるなり、攻撃されるなりしたら、梟を飛ばして知らせて貰う。
――もっとも、それが護衛がいらない理由ではない気がするんだけどね。
戦士でもない女性一人で旅が出来ていた理由……それに関わりそうな部分はちょいちょい見せてもらったものの、決定的に納得できる程の理由はまだ教えて貰っていない。彼女の言うところの『神の加護』とやらはこちらが想像できない程とんでもないものである可能性があるんじゃないかとアルスは思っていた。
次回はゼラ側、エニとラーダの話。




