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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
三章:森の住人
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3・形跡

 アルス達一行は、更に川の上流まで来ていた。

 ただここまで上流にくれば周りの崖はかなり低くなっていて、特に自分達が下りてきたのと反対側の岸の方はもうかなり前から崖といえる高さはなく、大人一人半の身長分くらいしかない段差の上に森が広がっているのが見えていた。川幅も大分狭く浅くなっていたのもあって、アルス達は渡り易そうなところから河原が広くなっているそちら側に渡って歩いていた。


「さすがにこの辺までくれば、もう連中は追ってこないわよね」


 マーナがそう言ってきて、アルスはちょっと間をおいてから答える。


「んー……どうかな。一応ナグラック族の活動範囲からは抜けているけど、今の彼等は今までの常識で考えない方がいいからね」

「どういう事?」

「ナグラック族は新しい人間がトップについて今までとは違う動きをしている。なら、今までならこうだった、っていうのはアテにならないだろ」

「あぁ……確かに、そうね」


 現在先頭はアルスとシオール、ドゥトス、それからマーナとシェノンが務めていて、最後尾はレガン達のグループ、中間2か所に分けてジェアのグループの人間がいる。マーナはシェノンの護衛だが、前にシェノンがいるのは時折梟を飛ばして進行方向の安全を確認してくれているからだった。


 ちなみに、シェノンやドゥトス、シオールは必要以上に話したりはしないから、必然的にマーナとアルスの会話ばかりが続いているのが……実はちょっと辛い。とはいえこっちがおしゃべりしている分、周囲の警戒をしているドゥトスやシオールに会話に入ってくれとは言えない。たまにシェノンに話をふるくらいしかないのだが、彼女も彼女でマーナの話を優先するため、結果話は殆どがマーナの疑問にアルスが答える形で続いていた。そしてそれが、アルスとしてはかなり疲れるのだ、精神的に。いやもう、そのせいで体力的にもきつい訳だが。


 と、そんなアルスだったが、それでも一応彼なりに前に注意をしていた。

 だから、ソレ、に気づいたのは、アルスとシオール、ドゥトスがほぼ同時だった。


「アルス様」


 最初にシオールが声を掛けてきて、ドゥトスが真剣な目でこちらをみてきたからアルスは言う。


「うん、分かってる。ただこの大所帯で調査は危険だから一旦戻ろう。さっき休憩した場所なら割合安全そうだからそこまで行こうか」

「そうですね」

「分かりました」


 そんなやりとりになれば、当然マーナが訳が分からなくて混乱する。


「え? 何々、何があったの?」

「後でちゃんと説明するから、とりあえず皆、停止ー。後ろまで伝えてー」


 足を止めて、後ろの皆に最後尾まで伝言で伝えてもらう。


「じゃ、俺はちょっとジェアとレガンに話してくるから」


 それに自分が行くといいたげに一歩踏み出したシオールに向けて、アルスは彼が何か言いだすより早く説明を付け足す。


「まず、二人に相談して説得しないとならないから俺が行くしかないだろ。それに皆の列の中を行き来するだけなんだから危険もないし護衛もいらない。っていうかシオは前で何か起こった時のために備えてもらわないとならないしっ」


 そこからすかさず、じゃ、と言ってすぐアルスは後ろに走っていく。マーナが文句を言ってきたが、今はいちいち彼女と問答をしている場合ではない。戻ったあとできちんと会議をするつもりだから今は我慢してもらう。


「ジェアっ」


 既に皆の足が止まった状態で困惑していたらしい彼は、アルスを見るとまず聞いてきた。


「アルス、何かあったのか?」

「うんちょっと、このまま何も考えずに前に進まない方がよさそうで」

「どういう事だ?」


 そこで彼の耳に近づいてアルスは小さい声で伝える。


「この辺り、どうやら住人がいそうなんだ。河原に罠を仕掛けた跡っぽいのとか、人が下りてて出来た道みたいなのがあった。まだ確定ではないけどいきなり全員で遭遇ってのは避けたいから、一旦さっき休憩した場所まで戻ろうと思う」


 さすがにジェアもそれを聞けば顔が引き締まる。


「分かった、確かにそれは戻った方がいいな」

「いろいろ意見はあると思うから戻ったらすぐ会議をしよう。とりあえず俺はレガンに言ってくるから、後ろに動き出したら皆への伝達は頼む」

「あぁ、分かった」


 とはいえ問題は、レガンが納得してくれるかではある。だが、あのイノシシ退治以降は大分彼の態度も軟化してきたから説得自体はどうにかなりそうな気はしていた。

 ……まさか、拍子抜けする程あっさり通るとは思わなかったが。


「分かった、さっきの休憩場所まで戻るんだな。配置はこのまま、そこまではこっちが先頭で行くんでいいな?」

「あ、うん。それで頼めるかな」

「分かった」


 それで彼はすぐに周りの連中に号令をかける。


――いや、何か心境の変化でもあったのかな。


 アルスが驚くくらい、レガンはあっさりアルスの案を受け入れてくれて、テキパキと皆に指示を出していた。

 もともとレガンは実務レベルなら優秀だし、意地さえ張らなければ同じ判断をしてもおかしくはない。だからさくっと納得してくれたのだろうか、とアルスは思う。


「あ、レガン」


 一通りの指示を出して周りの様子を確認しているレガンに、気づけばアルスは声を掛けていた。


「なんだ?」


 その顔が不機嫌には見えなかったから、アルスはこの機会に思い切って言ってみる事にした。


「俺は戦闘に関しては役たたずだから、戦闘時の具体的な指示は基本的にはレガンに任せたいと思ってる。ただ皆の命を背負ってもらうなら、ひとつだけ頭に入れておいてもらいたい事があるんだ」

「……なんだ?」


 少し驚いた顔をしたものの、彼は真剣にアルスの目を見て聞いてくる。


「こちらにとって都合がいいこと、こうであってほしいと思うこと程疑って欲しい。そうして常に最悪の状況を想定する。そうすればなんにでも対処できるだろ」


 レガンは本来優秀だ。けれど彼は自分の希望的な考え方に拘って突っ走ってしまう。それがなければ彼は本当に上に立てる人間になれる。


「……お前はいつも最悪の状況を想定していたのか」


 少し考えてからぽつりと呟いたレガンに、アルスは苦笑してみせる。


「うん。自分一人なら思った通りにやってもいいけど、皆の命を預かるのなら最悪の事態でも出来るだけ多くの人が助かるようにしないとならないだろ」

「確かに、そうだな」


 その言葉と共にレガンは後ろを向いて、皆に準備が出来たか確認の声を上げる。それを見て、アルスは今度は最後尾になるシオール達の待つ方へ向かった。


実はこの三章は、レガンのメイン回が何話かあります。

次回はアルス達が一旦戻った後の会議。


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