2・報告
ナグラック族は他者から奪う事で生活してきた部族であるから、固定の場所に集落を作って住む事はまずなかった。とはいえ全員が戦士という訳ではないから、一応その時その時で拠点にしている場所はある。ただし、どの民であるかで拠点の移動頻度はかなり違って、土の民は森に拠点を作る事が殆どであったから、移動頻度はそれなりに多い方だった。ただ移動が多ければ住居が簡素な作りになるのは仕方のないことで、土の民の住居といえば木と木の間に布を張りまくって雨風をしのげる程度のもので、ただの野宿よりはマシと言えるくらいのものであった。
その程度の拠点であるから、捨てる事にも迷いはなかった。
クリス村を落とした後は、土の民の非戦闘員達の大半をこちらに連れてきて各自に家を割り当てた。これは、元のクリス村の住人がほぼいなくなったからこそ出来たともいえる。初めてまともな家に住む事になった土の民の者達は、それだけでゼラに感謝し、彼の功績を讃えた。
新しい街が出来上がったら彼等もそちらに移動してもらうつもりだが、ここに残りたいという者がいるならそれはそれでいいとゼラは思っていた。
「ゼラ様、岩の民のドーレア様より手紙が届いております」
「さすがに、情報が早いな」
ケイラがもってきた焼き印付きのペイル板を受け取って、ゼラは笑う。
ドーレアは頭がいい。洞の民を潰して土の民が頂点に立つ事が確定した今、彼がこちらに逆らわず大人しく従うことは分かっていた。ゼラとしても、相手に敵対する気がないのなら荒事を起こす気はない。すんなり従ってくれるなら、砂の民や草原の民と同じ同族としての扱いをするだけだ。特に、現在ゼラの配下には頭を使って何かを出来る人間が少ない。ドーレアだけではなく、その側近もなかなかの切れ者だと聞いているので、ぜひ駒として欲しいところだった。
「あと、川の民からも感謝の言葉を預かっています。ただ彼等は頭領が死んだのもあって内部的に纏まっていないようで、礼の言葉と同時に支援してほしいという言葉も」
「つまり次の頭候補共が個別に礼を言ってきて、自分が頭領になれるよう力を貸してくれと言ってきてる訳か」
「そういう事です」
「大した数が残っていないのに、内部で揉めてるのか」
「えぇ、ですから次の頭領を狙っていない者からは、このまま土の民に併合してもらってゼラ様の下につきたいという言葉もありました」
ゼラはため息をつきつつも人差し指で肘掛を叩く。
現在、頭領がいないのは川の民と洞の民だ。だがこの二つには次の頭領を立てさせる気はなかった。
「どうせゆくゆくはナグラック族の中での区別は無くすつもりだ。川の民の連中には頭を立てて貰うのではなく、代表者としてこちらと報告を取り合う人間を立てて貰ってから元の住んでいた地域に戻ってもらう」
「砂や草原の民側もその扱いになるのですか?」
「ゆくゆくはな。頭領連中は、新体制下で俺に次ぐ地位を与えて中央の人間になってらう予定だ。そうなれば自分達の民を直接みてやれなくなるから住む地域ごとに代表者を立ててもらう事になる。ただし、各民の部隊の指揮権はそのままだ」
国として体制を整えていくなら本当は全ての決定権はゼラに集中させたいところではある。ただナグラック族の気質的に彼等の頭領よりゼラの命令を優先させるのは難しいから、彼等の部隊は各頭領にそのまま指揮を任せるしかない。
「代表者は住む地域ごと、ですか」
「あぁ、ナグラック族はこれからは基本定住する民になる。住民の管理をする代表者を立ててそいつが中央との連絡役となる訳だ」
「なるほど」
食料も基本は生産するところから中央へ送り、足りないところへ分配する。もう他を襲う必要はない。それが全部上手く行くとは思っていないが、動かしながら調整していけばいい。
――最初は力で押さえつけて従わせる。やがて自ら従うようになる……のが理想だが。
ナグラックの民の性質上、最初は力で従わせるしかない。従った結果、前よりも生活が良くなれば人々は自ら従うようになる。そうなるように制度を整えていくしかない。
とはいえ現在一番の悩みは内政方面に向いた人材が足りない事だ。ナグラックの民が長年強さこそ正義を貫いてきた弊害として、何も考えず力任せで全てを解決しようとする人間ばかりになった。ゼラだって全部を自分で考えて指示する事なんて無理だ。これから支配地域が増えていけば絶対頭を使える人間が必要になる。
ただし、その手の人材がナグラックにいないからといって、外の人間ばかりを重用して役職につけていけば必ずナグラックの民から不満の声が上がるのも分かっている。
考えただけで頭が痛い。
ゼラは目を閉じて背もたれに頭を寄りかからせた。
そんなゼラに、ケイラが少し声を落として聞いてきた。
「それとゼラ様、森の調査隊ですが……渓谷の中で下りられそうな場所を見つけて、どうも最近下りた形跡がある、という報告が来ています」
「下りてみたのか?」
「いえ。下りて探すように命じますか?」
クリス村から逃げた者達の捜索については既に打ち切っている。ただ今後、この辺りに定住する事を考えて、森の調査部隊を出して森の簡易的な地図を作らせていた。今回の報告はそちらからのものだ。
ゼラは肘置きを叩いていた指を止め、顎を軽く擦って考えた。
「……いや、調査隊は下りずにそのまま森の調査を進めさせろ。ただその下りられる場所についてはどこなのか詳細を聞いておけ。出来れば現在までの地図の写しもあるといい」
「はい、承知いたしました」
そのまま放置したくはないが、既に諦めたもののために労力を割きたくもない、ならば――ずっと苦虫をかみつぶしたようだったゼラの顔が僅かに緩んだ。
次回はアルス達の話。




