42・期待してるぞ
最後の1シーン。これでこの章は終わりです。
月が丸い。
おかげで今日は『力』が満ちている。シェノンは月の光を受け止めるように両腕を広げた。
彼女が今いる場所は高い木のてっぺん。勿論普通ならそんなところ、例え登れたとしても立てる筈がない。そんな場所が人間一人の体重を支えられる訳がない。それが出来るのは彼女の体が実際は宙に浮いているからだ。
下から見える筈がない高い木の上、月の光に照らされて彼女の長い黒髪が虹色の光を纏って揺れる。そこへ梟がやってきて、彼女を中心に旋回するとその肩に止まった。
「パトラ、皆に伝えてくれ。面白い坊やを見つけた。あの子が我らを変える者かはまだ分からないが、ちょっと期待したいところがあって、暫く共に行く事にする」
言えば、梟は羽ばたいて、月に向かって飛んでいく。
その姿が見えなくなるまで目を細めて見つめてから、シェノンは視線を下に向けた。
「何かを成すためには、頭と力と運が必要だ。今のところお前にはどれもあるといえばあるが、どれもまだ中途半端だ」
少し面白いのは、その三つともを彼自身が持っている訳ではない事だ。偉大な何かを成すカリスマ的な人間というのはそのどれもを持っている人間だと思われていた。だが彼の場合、彼自身に力はない。代わりに彼の手足となる人間に力がある。
特別な人間というのが、その人間が何でも出来る程の特別な力を持っているのではなく、足りない部分を他の人間で補って全体で特別な力とするというのなら面白い。今はまだ、彼は目先の状況に対処するのがやっとで先のビジョンがないが、彼がしっかりと自分の目標を定めて、それがこちらの目指すモノと合わさるのなら――大きな変化が訪れるかもしれない。
「期待してるぞ、アルス」
深い緑色の瞳を細めたまま、シェノンは唇端を楽しそうに吊り上げた。
これで2章は終わりです。
ただ3章を始める前にちょっとお休み(多分2週間前後)して、その間別の話の更新をします。
3章はまたアルス達がメインのお話になる予定です。




