40・決着の後2
とりあえずネイズはこれでいい。そう判断したゼラは、今度は後ろでわざと目立たないように他の土の民の戦士の影に隠れている男に声を掛けた。
「バンダー、今度はお前の報告を聞かせろ」
「あーはい」
見つかって仕方なくやってきた感じの男は、それでもゼラの前にくると恭しく跪く。
「まずは洞の民の制圧の成功、おめでとうございます」
そのわざとらしさに思わず眉間に皺が寄るが、こういう男なのは分かっている。
「そういうのは今はいい。巫女様とエニは無事こちらで保護した、今回は随分お前に負担を掛けたな、悪かった」
「いえいえ、上手くいってなによりです」
「それで、捕まってた川の民の人数は四十二人だったそうだ、あっているか?」
「はい、それであってます」
「洞窟内の洞の連中の保管庫の場所は分かるか?」
そこでは地図を広げて見せる。立ち上がって覗き込んできた男は、その中の三か所を指差した。
「これと、これと、この辺みたいです。こっちとこっちは多分食料メインですね」
「そうか、煙が引いたら探させる」
グストが死んだと分かったとしても、洞の民の人間が全員あっさり投降するかは怪しい。それにハチを追い出すためにも、決着がついたあとにゼラは洞窟の入口でハッカ草の葉を焚いていた。ハチが嫌いな匂いなのもそうだが、人間もその煙を吸うと涙や鼻水が止まらなくなる。死にはしないからあぶり出す手段として優秀だ。
「あと、お前の相棒にも問題はないか?」
それには一瞬バンダーは驚いた顔をして、そこからにっこりと笑う。
「はい問題ありません。疲れて今はここで寝てますけど」
彼が指さしたのは腰の籠だ。ゼラも僅かに笑った。
「確かに随分働いてもらったからな。そいつの好物は何だ?」
「そうですね、生のチロの実か、ハチミツでしょうか」
「分かった、あとで用意させる」
「それはそれは、ありがとうございます」
「なんなら常に用意してやってもいいぞ」
「いやー、いいものばっか食べさせてると贅沢になりますからね、大きい仕事の後だけのご褒美のほうがいいです」
「そうか」
今回一番の功労者は間違いなくバンダーのサルだろう。人間と違って報酬など食べ物程度しか思いつかないが、それでも役立ったものには見返りをやるべきだ。
戦闘が終わったあとのゼラの仕事は多い。
ケイラがいれば細かい集計等は任せられただろうが、今回の面子では雑務は基本全部ゼラがやらなくてはならない。そういう事情もあるから巫女に関しては人と物だけ渡してエニに丸投げした。身支度してから合流すると言っていたから、それまでに面倒な仕事は終わらせておきたいところだった。
生まれてから殆どを洞窟で過ごしていたラーダは、外に出るといつも暫くはその眩しさに慣れなくて辛かった。
初めて洞窟の外に出たのは巫女になって初めて『炎の宴』を行った時だったか。楽しみで仕方なくて外へ出た時はとても嬉しかったけれど、結局自分の居場所はグストの傍しかなく、キラキラ光る外の風景もただの別世界、触れられないモノでしかないと思い知っただけだった。
「エニ、水の中に何かいるの、何かしら」
「それは魚です。多分赤イワウオでは」
「すごい速かったけど、あれを捕まえて食べる、のでしょう?」
「はい、そうです」
「あんなに速いものをどうやって捕まえるの?」
「それはいろいろ方法があります。釣ったり、網ですくったり、叩いて川の外に飛ばしたり……」
ラーダとエニは今、川で体を洗っている最中なのだが、なにせラーダにとっては流れがある水に入る事が初めてであるから気になった事はなんでもエニに聞いてしまう。おかげで体を洗う方がおろそかになっているのだが、いつも見ているだけだった風景の中に自分が入って実際触れて体験できるのだからはしゃぐなという方が無理な話だ。
「ラーダ様、そんなにあれもこれも今知ろうとしなくても、これからはいつでもこうして水浴びは出来ますから」
言われてラーダは恥ずかしそうに水の中に鼻まで浸かった。
冷たい水の流れの中はとても気持ちがいい。洞窟の中ではいいところ水をかぶるまでだから、こんなに贅沢に水に入れるのはとても嬉しい。これからはもう、あの暗い洞窟の中で過ごさなくていいのだと思えば浮かれずにはいられなかった。
あともう一話エニやラーダの話。次回にラーダはゼラと会います。
その後に短い一話があってこの章は終わりかな。




