39・決着の後1
ナグラック族洞の民がいた大洞窟はあまり高くない山の中にある。ただ高くないとは言っても基本的には人が入らない山であるから道などなく、登ろうとするとそれなりに大変ではある。だからこそ、グストはあまり山の方を警戒していなかったのだろうが、今回ゼラは自分が率いてきた部隊を山の中の各所に配置して地道な下調べと工作を行った。指示が必要な間はゼラも山の中にいるしかなかったが、作戦自体が終わって撤収指示を出したあとはすぐ山を下りる必要があった。
なにせ、他に勝利後の後始末を指示できる人間がいない。
今回の作戦においてゼラが裏方である工作部隊の指示役をしていたのは、この手の事で細かい指示を出せる人間がケイラやウロドの他にはゼラしかいないからだった。そもそも工作部隊の人間も所詮ナグラックの者であるから、詳細な指示を出さないと作業が成り立たない。だからこの手の込み入った作戦はゼラが工作側を受け持って戦闘は他に任せるしかなかったのだ。
幸い、戦闘指示が出来る奴ならいる。
ただし、相手がちょっとでも頭が回る奴だとフォロー役が必要になるのが困るところではあったが。
「グストの首は俺に任せるっていったじゃねぇかよっ」
作戦は無事成功したのだが、合流した途端、ネイズがこちらに駆け寄ってきて騒ぎだした。
「グストとは戦えなくても、ちゃんと戦い自体は出来ただろ」
「そらまぁ一応な。でも盛り上がりに盛り上がってこれが最後の一番勝負ってとこで終わりだぞっ、ひどすぎるだろっ」
「言っておくが悪いのは俺でもバンダーでもない。あのクソジジイが族長様らしくお前と正々堂々戦わなかったのが悪い」
「そらそーだけど、そーだけどっっ!!! このっ、俺の期待とやる気はどこへ持っていけばいいんだあぁぁっ」
そんな事知るか、と言いたいところだが、この事態は予想通りではあるから彼に絡まれるだろう事も想定内だ。彼を丸め込む言葉も用意してある。
「お前はグストに期待しすぎだ。昔ならともかく、今じゃ老いぼれて大分腕が落ちてる。もしすんなり戦っていたとしてもお前が期待するような面白い戦いは出来なかったと思うぞ」
それでもおそらく洞の民では最強だったろうが……というのは言わないでおく。ただまともに戦えばネイズが勝つと、そう思ったから今回の役を任せた。あの親父がまともな族長だったら誰もが納得する形で終わったのに、小賢しく立ち回ろうとしたせいで自分の命と一緒にその名も地に落とした。あのジジイが浄化の地でも惨めな思いをする事になったのは自業自得だろう。
「え? グストってもうそんな強くないのか?」
「あぁ、だからどうせ戦っても期待外れで、お前は別の不満を抱えて騒いでいたと思うぞ」
案の定、それだけでネイズの怒りが萎れていく。
「そら……強くないなら、確かに……」
「それでもお前に勝ちたくて卑怯な手を使おうとしたから自滅した、というだけの話だ」
「んー、まぁ……それな」
「弱いのに散々えばり散らかしてた奴が、最後に全部バレて卑怯者に相応しい最後を遂げた。お前と戦って族長の誇りをもって死ねるような器じゃなかったのさ」
ネイズは考え込んだ。多分絶対ロクに考えていないだろうが。
そしておそらく、物事を彼なりに単純化して勝手に納得する。
「ま、まぁそうか。つまり俺と戦うだけの価値もない男だったという事だな!」
「そうだ」
単純すぎる男は結論の誘導もやりやすい。困るところもあるが、使いやすい男だ。
ネイズとしてはその答えはかなり自分のプライドを満足させるものだったらしく、表情が明らかに満足げに変わる。分かりやすい。
「それで、お前の部隊の被害報告をしてくれ」
これでやっと実務的な話が出来る、とばかりにゼラは彼に聞いた。こういうのは、本来なら言う前に自分からまず報告してくる事なのだが。
「あー、死者はなし。ちっと重めの怪我人は二人。あとは軽傷ばっかだ」
「ハチに刺された奴は?」
「いねー。外に出てきたのも洞の連中ばっか追っかけてたみたいだな」
「そうか。お前達の部隊はちゃんと禁酒令を守ったようだな」
「あぁうん……ってそれ関係あったのか?」
「洞の連中が飲む果実酒は甘い匂いがするだろ? それにハチが向かうんだ」
「おぉっ。そっか、だから事前に負けてみせて奴らに宴会させた訳か!」
「そうだ」
「すげー、やっぱお前はあったまいいなー」
お前も立場的にもう少し頭がよくなってくれ――と言いたいのは我慢する。彼に言ったところで開き直られるだけだとゼラには分かっていた。
次回、このシーンの続きをもう少し。




