38・大事な話2
「あ、うん、すぐ行くよ」
こういう時のマーナに逆らうとあとが怖い。それをアルスは経験的に知っている。
立ち上がったら彼女に腕を掴まれて、そのまま連れていかれた。抵抗するつもりはなかったものの、そもそも抵抗しても無駄な事を悟ってちょっと寂しい気持ちになった。
「で、マーナ、婆様がなんだって?」
「さーね、なんか大事な話みたいよ」
いやだからなんで怒ってるのかなーと考えながらも、マーナに引きずられる勢いで連れていかれる。そこは皆が休憩しているところから少し離れたところで、婆様だけではなくジェアやレガン、更には六英雄の奥方達が集まっていた。確かにこれは大事な話をするための面子だ。
「えーと、皆様お集まりで……遅れてすみません」
なんか妙に皆に注目されてしまったから、思わずへらっと笑ってそう言えば、最年長の婆様エリグアがにこにこ笑って言ってきた。
「アルス、そろそろ今後のためにきっちりリーダーを決めとこうと思うんだがね」
「あー……成程」
レガンだけがやたら睨んできたのはそのせいか。
アルスは考える――リーダーなんてやりたい奴がやればいい。この場合おそらく一番やりたがっているのはレガンだろうが、戦闘だけなら良くてもそれ以外を考えればジェアの方がいいんじゃないかなー、年上だし、俺も話しやすいし――なんて結論を出していた矢先、笑顔のままの婆様がにっこり続ける。
「で、お前さんがいいという意見が多いんだよ」
「え……」
驚いてから、アルスはまたへらっと笑ってみせた。
「いやいやいや、俺みたいなよわっちぃのがリーダーってのは納得出来ない人もいるんじゃないですか? こんな事で揉めたくないしそもそもリーダーってのは強い人間ってのが普通で……」
と言いかけたら、背中をバシンと叩かれた。
「っていっても、今ここにいるのは大半が戦えない奴ばっかじゃないか。なら、そっちの連中の事をちゃんと考えられる人間じゃないと困るんだよ。それにここまでこれたのだってあんたの判断があったからじゃない。ま、あんたが弱い分はシオールでチャラにも出来るし、諦めてリーダーになっときな!」
大斧のタスクの妻、フォルだ。元戦士で勢いのある彼女は、正直母と重なり過ぎて実は今はあまり見たくなかったりする。
「私たち皆と、他の連中にも聞いた結果だよ。自信もってリーダーを名乗んなさい」
更にそう言ってきたのはクォーラの妻のルーイで、その傍でジェアがこくこくと頷いていた。ジェアがそれじゃ自分が彼を推す訳にはいかないじゃないか、となんか逃げ道を塞がれた気分だ。
改めて周りを見渡せば、皆がこっちに目で訴えかけてきていてこれはもう断れる状況ではなさそうだった。
「べっつに、あんたがなんでも決めろって事じゃなくて、これからはあんたが責任もって意見をまとめて指示出せってだけの事じゃない。今までとそんなに変わりないでしょ」
それは確かにそうなんだろうけど。でも実質取りまとめる事になってたっていうのと、責任もってまとめ役になるって言うのはまた違うよね――なんて事が言える訳もなく、アルスは顔をひきつらせた。
――ここは受けるしかないだろうなぁ。
リーダーになった方が意見を通しやすいのは確かだから、いろいろやりやすくはなる。アルスにとって悪い事はないだろう。ただ……皆が好意的な視線をこちらに向けてくる中、一人だけ不機嫌そうな目を向けている人物がいる事も分かっていた。レガンとしては、皆にこれだけ推されていたら反対は出来ないし、彼自身が名乗りをあげても支持されないのを分かっているから黙っている、というところなのだろう。もしかしたら一度手柄を立てた事で、少しは意固地になっていた部分が和らいだ可能性もあるが。
アルスは大きく息を吸った。
「あー、では、その、荒事は他人まかせの俺ですが、皆が安心して生活出来るようになるのを目標にがんばりたいと思いますっ」
そこで皆から拍手が起こる。
それだけではなく、こちらの状況を受けて、離れたところにいる皆や、警備中の者、シオールやシェノンまで拍手をしてきた。
――いや、こーゆーのって苦手なんだけどなー。
アルスが目指していたのは、戦闘から生活向上まで皆を知識で幅広くサポートする影の功労者的な役割でトップに立つ事ではなかった。分かりやすくリーダーになれる族長の血筋の人間がいないせいとはいえ、自分が何か間違った方向に向かっている気がして仕方がなかった。
――ま、どうせどこかに落ち着くまでの一時的なリーダーだろうし。
どうせやる事は変わらない(筈)。
今のところ目指しているのは、安全な地で落ち着く事。その先の事を考える程の余裕は今のアルスにはなかった。
次回はゼラ側の戦い後の後処理。




