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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
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8・勝負の理由

「父上、クォーラ様から勝負とか言われたのですが、どういう事でしょうか?」


 その日の夜、村の周囲の見回りに行っていた父の帰りを待って、アルスは早速そう聞いた。当たり前だ、説明してもらわないと何も状況が分からないのだから。だが相当の気合を入れて尋ねたその言葉は割と軽くあしらわれた。


「あぁ、八日後か、そういえばそうだったな、言うのを忘れていた」


 いや絶対わざとだろう、と確信したのは、父の顔がやたら楽しそうだったからだ。確かにあんなにあっさりアルスを戦士にするのを諦めたのは怪し過ぎたし、なにか裏がありそうだとは思ってはいたが。


「で、どういう事でしょうか? 詳しく聞かせて頂けますか?」


 もう一度聞けば、父であり村の英雄でもあるサリドは変わらず軽く言ってくる。


「なに、キシェナに奴隷を買いに行った時、シオールを買いたいと言ったのは俺だけじゃなかったんだ。まぁ、他の奴等は俺が買うといったらあっさり引いたんだが、クォーラがなかなか諦めなくてな」


 それでも話がついたから父が連れ帰ったんじゃないのかと思ったら、父はとんでもない事を言い出した。


「奴め、戦士としては役立たずの俺の息子には勿体ない、自分こそがそいつの主に相応しいと言い出したんでな……まぁ俺もちぃっとばかりむかついてな、つい売り言葉に買い言葉という奴で言ってしまった訳だ」

「何と言ったんです?」


 そこで父はニタァっという音が聞こえてきそうないい笑みで言ってきた。


「俺の息子は確かに戦士として戦う才はないが、他の戦士の能力を引き上げる才能がある。俺の息子につければ、この子はお前にも勝てるようになる……とな」


 アルスは頭を抱えた。これはわざとなのか、本当につい頭に血が上って言ってしまっただけなのか。父は確かに血の気が多いところはあるが、それでも後先考えず暴走するような人間ではない筈だった。


「それでその言葉の証明として、八日後に勝負、という事なんですね」


 だから父の真意を探るように尋ねれば、父は酒さえ飲みながらやたら機嫌の良さそうな様子で話を続ける。


「そういう事だ。……なぁに、お前はいつも言ってるじゃないか、自分には戦士としての才はないから諦めてくれ、だが直接敵と戦えない代わりに皆を勝たせる状況を作るための勉強をしているのだと。……アルス、ここまでお前の好きにさせてやってきたんだ、そろそろその言葉を少しくらい証明してみせろ」


 そこまでずっと上機嫌で笑っていた父の顔は、最後の言葉をいう時には笑っていなかった。







 状況的に、父に謝ってごめんなさい無理ですなんて泣き言を言える訳はなく。

 勝負をするしかないのなら対策を考えるしかない。とりあえず状況は分かったので、部屋に帰ってすぐアルスはシオールに確認してみる事にした。


「で、勝てそう?」

「多分、普通にやれば勝てません」

「だよねぇ」


 アルスはへらっと笑ってから、がくりと肩を落とした。

 父の言い方からしてシオールではクォーラに勝てないのは確定だと思ったが、一応一縷の望みも持ってはいた。だから頭を切り替える。どうしよう、なんて事を考える暇があるなら少しでも勝てる確率を上げるために出来る事を考えるだけだ。


「お前が見たところでは、クォーラ様と戦うにあたって不利な面と有利な面はなんだと思う?」


 こちらが真剣な声で聞けば、シオールも相変わらず冷静に答える。


「腕力では勝てません。あと体力も、長引けば長引く程不利になります。有利な点といえる程の事はありませんが、体力が持つ間なら攻撃を避ける事は出来ると思います」

「つまり、クォーラ様の攻撃は見えるのか」

「そうですね、おそらく。ただ絶対とは言えません」


 アルスはそこで少し考えた。それからぽん、と手を叩いて口を開く。


「よし、とりあえず明日、どこか人気のないところに行って、シオの腕を見せてもらおう。クォーラ様の本気は俺が見たことあるから……まぁ、そこで対策を考えようか」


 だから明日は早起きして森に向かうと告げると、アルスは話をそれで終わりにするつもりで立ち上がった。だがそれに珍しくシオールの方から声がかけられる。


「何故、アルス様は実践も訓練も参加していないのに、クォーラ様の本気を見た事があるのですか?」


 寝る前の準備をしようとしていたアルスは、足を止めて彼を見る。言われたら確かにそこは疑問なのかもしれない。


「んー確かに訓練は逃げてたけど、広場が近いから戦士方の訓練はよく見てるし、特に父上達が試合をする時は必ず見に行ってる。俺自身が強くなる気はなかったけど、ウチの村で誰がどれだけ強いかは知りたかったからさ。だから多分、目だけはそれなりに養われてはいる……と、思う」


 少なくとも村の人間については、ちょっとした所作からでもある程度の強さは分かるし、武器を振ったのを見る事が出来れば戦いを見る前にどちらが上かは大体分かる……と自負している。


「そうですか。それではもう一つ聞いてもいいですか?」


 彼から話を振ってくる事は少ない。だからそれを歓迎こそすれ、拒否する筈はなかった。


「勿論、聞きたい事はなんでも聞いてくれ」

「サリド様が俺を『強い』と判断するのに、実際に武器を交えた事を何故知っていたのですか? サリド様は貴方に伝えなかった筈です」

「あー……うん、確かに父上は言ってはいなかったけど、お前の事を『強いぞ』って断言しただろ。そこまで父上が言うなら実際にその腕を確かめていない筈はないさ」

「成程」


 それでシオールは納得してくれたらしく、気のせいか表情が少し柔らかくなった。思わずこちらも口元に笑みが浮かんだが……ふと気づいて聞き返した。


「あ、ならついでに確認しとくけど、その時にクォーラ様とも実際に戦った?」

「いえ、腕を見たいと言われたのはサリド様だけでしたので」

「そっか。じゃ実際クォーラ様と手合わせした感触、とかは分からないよなぁ」

「すみません」

「いや、謝る事じゃないだろ。まぁ逆を言えば、向こうも実際の感触を分かってないって事でもあるし。あぁでも見てるから大体の実力は分かってるってとこかな」


 クォーラが父とシオールの手合わせを見ていたなら、自分の方が強いのは分かっている。あの男は父よりも考える頭がないので、勝てる相手だと見下している可能性は高い。勝機があるとすればそのあたりを利用するしかないだろう。


――まぁ、負けたくはないけど、負けても仕方ないし。


 なにせ今回は殺し合い前提の戦ではない。負けたとしても、自分が死ぬ訳でもシオールが死ぬ訳でもないのだ。ただだからと言ってやる気がないのではなく、失敗前提でやれる事は全部やってみればいいというのがアルスの考えだった。


ってことで、ここから暫くクォーラとの勝負対策になります。

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