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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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36・残念な……2

 頭領を殺された事を怒るより、その頭領が不正を働いたかどうかの方に騒ぐところが揃いも揃って馬鹿ばかりである。バンダーはちょっとの嘲笑も込めて彼等に聞いた。


「おや、ここのどこが勝負にふさわしい場所なんでしょうか? 足元はぼこぼこな上に滑るし、薄暗い。どーみても慣れてる自分の方が有利な場所で戦いたかっただけじゃないですかね? その上罠として下に毒を仕掛けようとしてたんですからとんでもない卑怯者じゃないですか?」

「貴様、我らが族長を愚弄するか!」

「そうだそうだ、頭が毒など使うものか!」


 バンダーはそれに意外そうな顔をしてみせる。


「あー……皆さんは知らなかったようですね。実はグスト様は洞窟の外の秘密の場所で毒バチを飼育してその毒を取り出そうとしていたんですよ」


 勿論これもでまかせだ。毒が欲しいならもっと効率のいいものがいくらでもある。だが、相手は戦う事だけに脳を占領されている馬鹿共だ。彼等の中では、突然ハチの襲撃にあったという事象が繋がって一気に信憑性が増していることだろう。

 思った通り、洞の民の戦士達の表情が変わって行く。ただそこで一人、ポツンと話題から取り残されて怒りを溜めていた男がその怒りを吐き出した。


「るせぇっ、結局俺が勝つんだから余計な事すんじゃねぇよっ」


――お前が一番の脳筋だから悪いんだろーが。


 顔は平静を保ちつつも、戦闘狂の馬鹿にはちょっと言っとかなくてはならないかとバンダーは思う。


「いやネイズ様、毒くらったら貴方でもヤバイでしょ。いいですか、貴方があんまりにも何にも考えないでつっこむから、ゼラ様からフォローするように言われたんですよ俺は。ここでネイズ様に死なれたら困るからって。貴方も戦いならともかく、罠で死にたくはないでしょ」

「む……」


 ゼラの名を出すと、ネイズもちょっと怯む。この男も、ゼラは自分より強いだけではなく頭がいいというのを認めている。だからゼラ相手なら勢いだけで押してはこない。


「本当にグスト様が……」

「あの方が卑怯な手など……」


 ネイズの後ろから聞こえてくる不安げな声が耳に入って来て、バンダーはわざとらしく咳払いをした。とりあえず脳筋馬鹿への説得はあとでゼラにやってもらう事にして、バンダーのここでの仕事は洞の民に今言った話を信じさせる事である。


「あのですね、どう考えたってグスト様が本当に正々堂々とした族長に相応しいお方だったなら、ネイズ様に名を呼ばれたら即出ていくところでしょう? こんなところへ呼び出す時点で何をやっても勝てばいいと思ってるような人間なのは確定なんじゃないですかね?」


 馬鹿達にはあまり小難しくいっても仕方ない。これが簡単に出来るぎりぎりだ。

 そうすればネイズを案内するついでにぞろぞろとついて来ていた洞の民の戦士達は、互いに顔を見合わせながらも小声で話しだした。最初はまだ自分たちの頭領を信用したいという意見が出ていたものの……グストへの信頼と尊敬が地の底に落ちていくまであまり時間はかからなかった。そのタイミングでバンダーは口を開く。


「とにかく、卑怯者は倒れた。我らが頭のゼラ様は、族長に相応しくない者に従わなくてはならなかった戦士達を気の毒に思っています。同じナグラックの民としてゼラ様に従うというのなら、その誇りと立場を尊重するという事です」


 そこまで言えば洞の民の戦士達の顔から困惑や迷いが消えた。頭が悪い人間というのは自分にとって都合のいい方を信じるものだ。この場合はグストを悪者にしてしまえば、全部上手く行くことに彼等も気づいたのだろう。


「でもよー、折角グストのクソ親父をぶっ殺せると思ってきた俺のこの気持ちはどうなるんだよーーーー!!」


 もう黙れ、と言いたい言葉を飲み込んで、未だに不満を抱えて一人騒ぐ馬鹿は無視する。こいつのしつけはゼラの仕事だ。


ネイズさん、俺はやるぜな気持ちの持って行きようがなくなった模様。

次回は久しぶりにアルス側の話。

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