35・残念な……1
まさか本気で自分が保険として機能する事になるとは思わなかった。と、死んでいる親父を冷たく見下ろしながらバンダーは思った。
混乱の隙にネイズが外の連中を倒し、グストを名指しして一騎打ちに持ち込んで倒す。あの戦闘馬鹿の砂の民の頭にゼラが説明した今回の作戦はそこまでだ。だがネイズとは別にバンダーにはゼラから追加の指示があった。
『あのクソ親父は腐っても歳の分だけのずる賢さがあるからな。大人しく出てきてネイズと戦わない可能性がある』
『でもそうしたら自分の民に見放されるんじゃないですか?』
だからグストは戦いに応じるしかない。それを狙った作戦だった筈だ。
『ああ、だから奴も応じはするだろう。だがな、自分が有利になる条件をつけるなり、そういう場所を指定するなり、あるいは罠、もしくは他の人間を使ってなにか工作してくるかもしれない』
『あーそれはあるかもですね』
『で、ネイズの奴は戦えるならなんでもいいで深く考えずに了承する可能性が高い』
『あー……』
残念な彼の頭を思い浮かべてバンダーの声が残念そうに下がる。
『俺としてはここでネイズに死なれたら困る。だからお前は保険として洞窟に残っていろ』
グストがどんな手を使うかは分からないが、ようは『戦いに勝てばいいだろ』なノリで何も考えないネイズのフォローをしろという事だ。ただその際『解決方法は任せる、例えどんな手を使おうが死人に口なしだ』とそう言われた段階で、ゼラがナグラック族の誇りや矜持なんてどうでもいいと思っているのが分かった。
――ま、そういうあんただから、面白いと思った訳だし?
「今回はお前にたくさん働かせちゃったね、ありがとな」
肩の相棒を指で撫でれば、嬉しそうに首に縋りついてくる。ゼラは本気で利用できるものは最大限利用する男だというのは承知しているが、今回は容赦なくこっちの相棒を利用してくれたものだと思う。嬉しそうに撫でられているドットに、バンダーは干したカカルの実を与えると手を離した。それから改めて周囲を見渡し、死んだ族長様のところへ歩いていく。
――さて、本気で死んでるかね。
うつぶせに倒れている親父を足でひっくり返して確認する。まぁ死んでるだろうがついでに顔を足で軽く踏んでみる。生きてたら怒りまくる筈だ。
――よし、死んでる死んでる。
なんてのんびり確認していたら、向こうの方らから人の気配が近づいてきて、聞き覚えのありまくる声も聞こえてきた、そして。
「さぁ族長様、正々堂々俺と勝負だ!」
聞こえた声に驚いてドットが背中に隠れる。
本当に馬鹿だよな――なんて冷静に思いながら、剣を両手に構えて怒鳴り散らかした男がこちらを見つけるのと同時に、バンダーはにっこりと笑ってやった。
「え。……って、お前、おい?」
彼の視線がこちらの顔を見たあとそのまま足元に落ちる。そこにあるのがグストの死体だと理解すれば、その顔がゆっくりと悲しそうというか残念そうに変わって行って、それから急にこちらを睨んできた。
「おいっ、ずっりーーーだろっ、族長様は俺と勝負する事になってたんだぞ!!!」
怒鳴るネイズに、バンダーは出来るだけ申し訳なさそうな顔をしてみせた。
「えぇ、俺もただ勝負を見届けるつもりでいたんですけどね、グスト様がナグラックの長として許されないような卑怯な罠を仕掛けていたのをみたら黙っていられなくて」
「それで殺したのか?」
「そうですね、いや殺すつもりはなかったんですけど、注意したあと逃げながらナイフを投げていたらたまたまいいところに当たり過ぎてしまったんですよ」
ネイズはまだこちらを睨んでいる。疑っているのかもしれないが、それより戦えなかった事が悔しいのが一番だろう。そこでネイズの後ろにいた洞の民の連中らしきものが騒ぎだす。
「貴様、何を言っている、グスト様が罠など使う筈がないだろう!」
「そうだぞ、グスト様は決着をつけるにふさわしい場所で戦おうとしただけだ!」
――はいはい、どいつもこいつも脳筋ぞろいで。ま、罠は嘘だけどー。
このシーンはあともう一話。




