33・俺と勝負しろ
「頭っ、連中出てきました、慌ててますっ」
洞窟を見張っていた者が隠れていた林の中に駆け込んできてそう叫ぶと同時に、ネイズは立ち上がった。
「さぁって、やっと本番だ」
パンっと左拳で右の手の平を叩く。
皆が一斉に振り返って嬉しそうな視線を向けてくる。そりゃもう皆暴れたくて仕方なかったろーよ――なんて思いながら、ネイズは林の外へ向かって歩き出した。それに従うように、他の戦士達も盾を前に構えて林の外へ向かう。
「いくぞ、てめぇらっ。今度は遠慮なく暴れていいぞっ」
林の外に出ると同時に、走り出す。
すぐにそれに呼応する声が上がって、後ろに続く連中の足音が地響きとなる。
洞窟の入口からは離れているから、近づく前に見つかって迎撃態勢を取られるのは仕方ない――だが、目に入ってきた洞の民の連中は、最初に負けるために突っ込んだ時と違ってこちらを待ち構えていなかった。人数自体はあの時よりいるのだが、なんだか騒いでいるだけで、どうみても戦うつもりじゃない連中が大半だ。
――ははっ、やっぱすげぇなゼラはよ。
マジで作戦通りに、洞の民の連中がパニック状態で出てきている。
遅れたものの、さすがに気づいた者達が慌てて弓を構えだしたので、ネイズも盾を前に構える。勿論戦う時は両手に剣を持つが接近するまでは剣は左だけで右手は盾だ。自分の戦闘スタイルに拘りはあっても別に意地でも盾を持たない訳ではない。そんなところまで意地を通すのはただの馬鹿だ。
矢は飛んでくるもののまばらで、やはり前の時よりもかなり少ない。これなら楽勝で接近出来る。見れば、外に出ていた非戦闘員らしい連中が今度は慌てて中に戻ろうとしていて、逆に出てこようとする戦士達の邪魔になっているようだ。
混乱が更に混乱を招いて、向うの戦士達が思うように戦闘態勢を取れない。その間にネイズはもう敵の表情が分かる位置にいた。
「うぉぉおぉぉ」
一番近い弓兵の顔を睨んで叫ぶ。目を恐怖に見開いた男が動けず固まった、直後にネイズ左手の剣がその首を刎ねた。
「このっ」
背後から声が聞こえて、ネイズは体をひねる。避けたそこに敵の剣が突っ込んできて、ネイズはその敵に向けて盾を思いきり投げつけた。顔付近に盾が当たった敵が倒れる。ネイズは空いた右手で腰から剣を抜いた。
――この間はこっちを抜く事もなかったからな。
当然だが、わざと負ける前提の時は防御重視になるので右手の剣は使わなかった。だからやっと、本気で戦えるという訳だ。
「おらぁっ、砂の民の頭ネイズ様の首だぞ、欲しい奴はかかってきやがれ」
それに呼応して、数人が突っ込んでくる。
最初の一人の剣は避けてすれ違いざまに腹を斬る。次の敵は前に突っ込んで直前で横へ避け、剣を振り上げようとした腕ごと斬り飛ばした。そこで、後ろから襲ってこようとしていた奴の足が止まる。だからしゃがみながら振り向くと同時に剣で相手の足を払った。
悲鳴と血が舞う。怒号と砂煙と緊張感。
やっぱ戦はこうでないと――ネイズの唇が笑みを作る。とはいえ、一瞬で五人を転がしたせいで敵はこちらから距離を取ったまま突っ込むのを躊躇していた。
「腰抜け共っ、さっさとかかってこねぇか」
挑発すれば、思い切った一人が走ってくる。
こいつは割といい腕らしい。伸ばされた剣をネイズは避けた。次にきた剣もしゃがんで避けた、と同時に足をのばす。相手は後ろへ飛んだ。
――いいねぇ、かなり出来る奴だ。
ネイズはその低い姿勢のまま相手に突っ込む。ただし相手の真正面ではなく左手側、盾を持っている方だ。防御面で言えは盾は優秀だがその面積が死角になるという弱点がある。気づいた相手は体の向きを変えた。その意図が分かってネイズは横へ大きく飛ぶ。振り下ろされた敵の剣は地面を叩いた。
ネイズの戦い方では、相手の攻撃は極力避ける事になる。逸らす程度なら剣を合わせる事もあるが、余程でなければ剣で受ける事はしない。なにせ両手に剣を持つというスタイルは防御性能がどうしても低くなる。へたに受けて力負けしたらあっという間に終わるからだ。
「やっちまえっ」
「ウォット様、お願いしますっ」
周りから聞こえる声から察するに、どうやらこいつはそこそこ洞の民の中でも名のある者らしい。下っ端が殺されたからちょっと上の奴が出てきたという事だ。
――けどな、やりたいのはお前じゃねぇんだわ。
一旦ちょっと距離を取って、ネイズは大きく息を吐く。なかなか楽しめたが、あまり遊んでもいられない。体を低くして、地面を強く蹴る。向うも腰を落として盾を前に出し、体を小さくして攻撃に備えていた。
低い体勢のまま一気に距離を詰め、目の前につくと同時に上体を上げながら右手の剣で斬り上げる。向うはそれに合わせて盾の位置を上げた。その、盾の下、相手の腹に左手の剣が走る。そのまま即後ろへ飛べば、ウォ……なんとかという男は地面に倒れた。
わっと声が上がる。だがそれは当然、洞の民ではなく砂の民の者達の声だ。先ほどまで威勢が良かった洞の民の者達は青い顔をして固まっていた。そこでネイズが一歩彼等の方へ足を出せば、固まっていた者達も距離を取ろうと後ろへ下がっていく。周囲を見れば今立っている者で洞の民は少ない。ただしそれは倒しただけではなく、洞窟の中に逃げ込んだ者もいるからというのは分かっている。
そして少し離れたところには、指示した通り捕虜とした洞の民を囲んでいる部下達が見えた。早い話、少なくとも洞窟の外に関してはこちらが制圧したという事だ。
――んじゃ、そろそろいいよな。
ネイズは大きく息を吸うと、出来るだけ大声で怒鳴った。
「グスト、我らが族長様、あんたが本当に族長に相応しい人間だと言うなら、出て来て俺と勝負しろっ」
ナグラックの戦いでは、余裕のある戦いでは上の者は後ろに控えて部下に手柄を取らせるようにする。逆に不利な戦いであれば上に立つ者こそが先陣を切る。だから今回、洞の民よりもずっと少数の部隊でやってきたネイズの行動に問題はない。
ネイズと割といい勝負をしたあの男も下っ端が次々倒された事で出てきたのなら、名のある戦士として正しい姿だ。
その男が倒されたなら、更に上が出てこなくてはならない。
――さぁって族長様、ここで出てこなきゃ族長どころか洞の民の頭としても認められなくなンぞ。出てこねぇ訳にはいかねぇよな!
ネイズはペロリと唇を舐めた。
ネイズのこの章における一番の見せ場でした。
次回はグスト側の話、そろそろ決着がつきます。




