26・偵察部隊
ナグラック族、砂の民の頭領であるネイズは現在、洞の民がいる洞窟を遠くに見ながらものすごく嫌そうに顔を顰めて……早い話が不貞腐れていた。
ゼラからの指示で、洞の民討伐に出る事になったのはいい。
洞の民の頭領であるグストの首を任せると言われたのも望むところだった、だが。
「偵察部隊を出して、わざと見つかって出来るだけみっともなく逃げてみせろってのは何だよっ」
言われたからには仕方なく偵察部隊を編成してこうやって出てきたものの、勿論ネイズ同然部隊の者の士気は低い。というか、そいつらの士気の上げようなんてある訳がない。
ネイズとしては勿論、今すぐ洞窟に突撃していきたかった。だが、それじゃ勝てないというのはキシェナで出発前にウロドにしつこく説明されていた。
『いいですかー、あの狭いところに突っ込んでいっても、奴らの居住区に入った途端袋叩きにあうだけですよ。それにどちらにしろ巫女様を救い出す前に突っ込む訳にはいかないでしょう、盾にされたら終わりじゃないですか』
そう言われれば反論は出来ない。
ゼラ自身も部隊を率いて先に来ている筈だが、そっちはなんだか巫女を助け出すための工作をしているらしい。使者だけが指示を伝えにやってくる訳だが、意気揚々とここまでやってきてまず来た指示が負けて逃げる事というのはどういう事か。
「そらー敵を調子に乗らせて油断させるためじゃないですか」
ネイズとは長い付き合いである部下のフロードにそう言われて、ネイズは恨めしそうに彼を見る。
「油断させてどうするんだ?」
「さぁ、そこはゼラ様に考えがあるんじゃないですかね」
「ま、そーなんだろーがよー」
実際ゼラが自分よりずっと頭がいい事はネイズも認めている。あの男は単純に戦いで強いだけじゃない。彼の下についたのは勝負で負けたからだが、彼の言う事に従うべきだと判断したのは彼の考え方に感心したからだ。
「ネイズ様、例えどんな仕事でも役目なら全力で果たすべきです。それに勝ったと思って散々奴らが馬鹿にしていい気になったあと、その馬鹿にした相手に倒されるのは相当の屈辱だと思います!」
それには、ネイズもちょっと考えた。
「確かに……それはそうだな」
「奴らがいい気になればなるほど、負けた時の悔しさは倍増じゃないかと!」
「よし、そう考えると、ここは思いっきり奴らをいい気にさせてやるか」
「そうです!」
さっきまでの不機嫌を吹き飛ばして、ネイズは部隊の先頭に向かって歩き出すと偵察部隊の連中に告げた。
「よっぉし、お前らいくぞっ」
フロードが驚いて顔を引きつらせる。
「あの……ネイズ様、ふりでも負けるのは嫌だからとここで見ているだけにするんじゃなかったんですか?」
「まぁな。だがよ、この俺様が尻尾を撒いて逃げたとなれば、奴らは最高にいい気になりやがるだろ?」
「それはそうですが……」
そこでネイズは両腰の剣を抜いて頭上で刃同士を重ねた。
「じゃ決まりだ、お前ら、派手に突っ込んで派手に逃げるぞ!」
ネイズのそのテンションが移ったのか、やる気のなさそうだった偵察部隊の連中から、おー、と気合の入った返事が返る。それから先頭に出て走り出したネイズを追って、部隊全員が洞に向かって突撃していった。
「これでどこが偵察部隊なんですか……」
フロードが頭を押さえてそう呟いたが、誰もそれを聞く者はいなかった。
ネイズは……こういう人物なんで。
ここからやっとゼラの作戦が動き出します。
次回は洞窟の中に潜入してる人達の方の話。




