23・潜入
――まったく、素晴らしい兄弟愛に感動しちゃうね。
なんて、実際感動のカの字も感じている訳でもなくバンダーば思う。グストの元にいる巫女を奪うため、エニが自ら洞の連中に捕まったという連絡がきたのが三日前。ついでにバンダーにはエニが巫女を連れて逃げるのを手伝えという指示つきだ。
だからバンダーは今、川の民の人間の一人と入れ替わって洞の民の洞窟の中にいた。
――もうちょっと早く言ってくれりゃ良かったんだけどな。
とにかく急過ぎたから、洞の民の住む洞窟につくまでに入れ替わりのチャンスがあるかはかなりの冷や冷やものだった。移動中の休憩時にさぼった見張りがいたおかげでどうにかなったが、奴らが勝利の宴で騒いでいる時にでも指示が来ていればもっと簡単に紛れ込めたのに、と愚痴りたくなっても仕方ない。
ただ都合がいいことに、ナグラックの連中は捕まえた捕虜が協力して反抗したりさせないため、捕虜同士で話す事を禁止していた。更にいうとここは光苔のせいで完全に暗闇ではないもののかなり暗い。そのおかげで他の川の民から疑われる事は今のところはなかった。まぁ、入れ替わった奴は一人で隅っこにいたような奴だし、他の連中とあまり交流がない奴だったのかもしれない。
とにかく、どうにかバンダーは洞の民の拠点内部に潜入するのには成功した。
ちなみに洞窟の中は暗くて目印になるようなものもなく、しかもバンダー達捕虜の一団はわざと遠回りをして連れてこられた。なにせこっちの方が先に洞窟の中に入らされたのに、広い空間に出た時には既にグスト達は中にいて大騒ぎをしていたのだから。大方連れてこられた道から外に逃げようとすれば迷いやすい、もしくは捕まりやすいようになっているのだろう。
とはいえバンダーにはそんな事は大した問題ではない。彼には頼れる相方がいる。こうやって捕虜に紛れ込むのも、そこから逃げるのも慣れていた。
――それに今回は、こっちが逃げられるように我らが頭領様が自ら動いてくれるみたいだし?
ゼラが妹を捨て駒にする筈はない。だから当然、逃げる為の準備もされている。状況によって変わるからと何パターンかの指示が来ている念入りぶりだ。その指示内容からして、もしエニが捕まらなかった場合でも自分が潜入するのは決まっていたんだろうとバンダーは思った訳だが。
「おい、交代だ」
「おう」
柵の向うから声が聞こえて、バンダーは顔を向けずに耳だけを澄ます。
「急げよ、巫女様のお祈りが終わっちまうぞ」
「おぉ、そうだな」
――祈りの時間、か。
ここについてから一日近く経っている。となればこれは定期的な祈りの時間なのかもしれない。こちらの目的は巫女であるから、巫女の行動は覚えておいた方がいいだろう。バンダー達がここへ連れてこられる時に通った、居住区と思われる祭壇がある広い場所、そこから細い通路を入った先に見張りが立っているところが見えた。バンダーとしては巫女はそこにいるのではないかと思っている。
――あとはエニ様がどこに捕まってるか、かな。
とはいえそこはドットが見つけてくれる筈だ。だから心配はしていない。エニの役目は巫女と接触してこちらに来てくれるよう説得すること。女である彼女なら、グストも油断して巫女と会える可能性が高い。逃げる時にエニが巫女を連れてきてくれるのがベストだが、迎えにいって向うからついてきてくれるよう説得済みなら問題ない。
――確かに、巫女の説得役としちゃ一番の適役だけどね。
だがバンダーとしては正直、エニから言い出した事だとしてもゼラが妹にそんな役をやらせるとは思わなかった。なにせ若い女が捕まれば、殺される可能性は低くても別の危険もある。ゼラは妹に対して能力以上の贔屓はしてはいないものの彼女の身の安全には気を使って仕事を与えている。ゼラが妹を大切にしているというのは土の民は勿論、ゼラを知る者なら周知の話だ。だからこそ、人質として狙われたのだから。
――多分、失敗して巫女が死ぬより、エニ様が死んだ方がえらいことになるだろうね。
だから優先順位は巫女よりエニの方かな――なんて考えていたバンダーだが、勿論エニとは別にこの洞窟に入った彼には、彼女が今、巫女と同じ場所に捕まっている事など知る筈がなかった。
バンダーも洞の民の洞窟へ無事潜入出来たって事で。
次回は巫女とエニの話。




