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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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22・風が吹いてきた

「戦士達の帰還だぞー」


 その声と共に、待っていた人々から歓声が上がる。

 いつも通り、自らの民の出迎えに手を振って、洞の民の頭領であるグストは上機嫌で彼等の拠点へ帰ってきた。先頭がグストであるのは当然として、その後に洞の民の戦士達と、そして最後に捕まえて連れてきた川の民の人間、彼等の財を乗せた荷車が続く。

 洞の民、というだけあって、彼等の拠点は大きな洞窟の中にあった。洞窟自体はかなり広く入り組んでいて、地上と繋がる出口も数か所ある大洞窟である。飲料可能な水場も中にあったし、奥にいけばかなり冷えるため貯蔵庫として使える場所がいくつもあった。洞の民も拠点を時々変えてはいたが、あくまで同じ洞窟の中で居住場所を変えていただけだ。

 洞窟自体知らない者が紛れ込めば迷って出られなくなるようなつくりのため、彼等を攻めるのは相当に難しく、それもあって洞の民は常にナグラック族の中でも上位にいた。グストに限らず、洞の民の頭領が族長を務めた回数も他と比べて一番多い。そして少なくとも、ゼラが土の民の頭領になるまでであれば民の数も一番多かった。勿論、現状ゼラが配下に入れた部族まで自分の民だと言い出せば、向こうが一気にこちらを上回る事はグストも承知していた。だからこそ、出来る限り早く手を打たなくてはならなかったのだ。


 だが今、グストが上機嫌なのは川の民を手にいれたからだけではなかった。

 実はこちらに戻る道中、グストのところに急ぎの連絡が入ってきていて、それが彼の上機嫌の理由だった。


「族長、おかえりなさいませ」


 留守を守っていた息子の一人、エジェイに恭しく出迎えられ、グストは開口一番に尋ねた。


「おう、帰ったぞ。それで、本当にゼラの妹を捕まえられたのか?」


 彼の上機嫌の原因はゼラの妹の誘拐に成功したとの連絡があったからだった。一度失敗しただけに半分諦めていた分、喜びは大きい。


「はい、今は捕まえてとりあえずラーダ様の部屋にいれてあります」

「そうか。……確かに、あそこなら閉じ込めておくには最適か」


 ラーダとは火の神ティエルペの巫女の名である。彼女は常にグストの傍に置いているから、今回の戦いにも当然彼女を連れていっていた。だから空いていた彼女の部屋にとりあえずゼラの妹を入れておいたのだろう。


「お帰りになられたのなら、別の場所に移しますか?」

「そうだな……いや、そのままでいい。どうせあそこから逃げるのは不可能だからな、女同士だ、一緒に入れておけ。武器を持っていないかは確認してあるのだろ?」

「勿論です」


 巫女の部屋は洞窟の中でも奥の方で、出入りする場所は見張りがいる一か所しかないし、そこをぬけたとしても祭壇の部屋や大勢が暮らす居住区を通らないと外には出られない。いくらゼラの妹が戦士だと言っても巫女に危害を加える筈はないし、逆に何かしたら大々的に宣伝してゼラの評判を落とす事も出来る。


「ならいい、見張りを増やす必要もなくなるしな」

「確かに」


 洞窟は広く、行き止まりになっている個所はいくつもあるが、見張りやすい場所や逃げにくい場所は限られる。特に今回は川の民の連中を捕まえてきたのもあって、見張る場所を余計に増やしたくはないという事情もあった。


「打った手に成果が返ってきたからな、やっと風はこちらに吹いてきたらしい」


 川の民をこちらの手に収め、ゼラへの脅し材料も手に入った。ゼラの配下である砂や草原の民は分からないが彼等がトップを取る事はあり得ず、こちらが優位にあると示せれば岩の民はこちらにつくだろう。ゼラに対する切り札を手に入れた事で、グストは自分の勝利を信じて疑わなかった。


次回はバンダーの話。

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