↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
73/115

21・兄と妹

 エニにとってゼラは妹に甘い兄ではない。むしろ幼い頃はほぼ無視をされていて、彼は自分に興味がないのだと思っていた。どちらかというと他の兄の方がエニの事を可愛がってくれた覚えがある。


 ただ、父に逆らってまでエニを庇ってくれたのはゼラだけだった。


 他の兄――長兄と次兄は父には絶対に逆らおうとせず、父がどんな理不尽な事を言って暴れたとしてもいいなりで諫める事さえしなかった。三男であるゼラも基本は父の言う事を聞いてはいたが、ある日エニが父の酒をこぼした時に殴られそうになったその手を止めてくれた。

 勿論、父は怒った。

 怒った父にゼラは何度も殴られた。だが彼はエニにはさっさと逃げるように言って部屋から押し出し、ただ黙って殴られ続けた。

 その時の父は相当に酔っていたから、その後父は飲み直したあとに寝てしまい、翌日には怒った事さえ忘れていて、エニは何も言われなかった。


『どうせあの親父は酔った時のことなんか覚えてない。あぁいう時はさっさと逃げろ』


 翌日エニがゼラに礼を言えば、彼はそう言っていた。

 エニが逃げられなかったのは怖くて体がすくんでしまったからだ。エニは父が怖かった。長兄も次兄も父の事を恐れていた。だがその頃からゼラだけは父を恐れていなかった。何故助けてくれたのだと聞くと、彼は当たり前のように言ったのだ。


『鍛えていないお前が親父に殴られたら大怪我をするだろ。へたをすると命にかかわる。なら俺が殴られた方がいい。俺なら慣れてる、痣が増える程度だ』


 その時のエニは自分が戦士になるなんて思ってもいなかったからまったく鍛えてはいなかった。兄達は全員戦士になるために鍛えていたが、ゼラは隠れて一人で更に鍛えていて、彼の体はいつも痣だらけだった。

 そこで初めてエニは自分も強くなりたいと言った。

 それ以後、彼一人での秘密の鍛錬にはエニもついて行くようになった。エニが他の戦士より強くなれたのは、誰よりも強いゼラの動きを見て、その剣を受けてきたからだ。

 そうして今、エニが兄と呼ぶ人物は彼一人だけになった。


「兄さま、村人を捕らえられず申し訳ありませんでした」


 村に戻ってきたゼラにエニはまずそう謝ったが、彼は咎めたりはしなかった。


「謝らなくていい。お前が無能だったから捕まえられなかったとは思っていない。お前が出来なかったのなら他の誰に頼んでもだめだったろうよ。逃げた連中の運が余程良かったか、逆に余程悪かったかだろうな」


 兄の計画からしたらかなりの痛手だっただろう。だが彼は、やるべき事をやった上での失敗なら責める事はまずない。エニが身内だからではなく、部下には公平にそうだ。そんなところもエニは兄を尊敬していた。


「もし生きて無事逃げのびていたとして、女子供ばかりでは脅威にはなりえないし、連中を受け入れてくれるようなところもない。見込んでいた労働力が得られなかったのは少し痛いが、他から連れてくればそれで済む話だ。それより今は、部族内の問題にカタをつけるのを優先するさ。……それでエニ、あの後またお前を狙ってきた奴はいたか?」

「今のところはいない、けど……森に潜んでこちらを監視してる奴はいるみたい」

「まぁ、それはいるだろうな」


 現在のナグラックの族長である洞の民のグストは、ゼラを相当に警戒している。エニを攫うのを諦めたとしても、こちらの動向を探るための人間を送り込んでいるのは当然だろう。いや、ゼラ自身だけでなくこの村に偵察を出している段階で、隙さえあればエニを攫おうと思っているに違いない。

 だから、エニには考えている事があった。


「それで兄さま、私考えたんだけど……」


 兄の計画、目指すものを知っているエニは彼が今、何に困っていて、どうしたいかを知っている。そのために自分が出来る事は何でもするつもりだった。


ここでちょっとエニとゼラの兄弟エピソード。

次回は洞の民の連中の話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。