20・我々の……
市場の村キシェナからクリス村までは、馬で移動すれば半日程度の距離である。兵を送るとしても朝発てば日が沈む前にはつけるから、両方の村に兵をある程度の数置いておけば兵数の調整がしやすく勝手がいい。これからの事を考えても、まずはこの二つの村を中心に動いていくべきだとゼラは考えていた。
――まずは早急に、ここには労働力が必要か。
やはりクリス村の元の住人達を捕まえられなかったのは想定外の痛手ではある。とはいえ計画自体は順調であるから余計な調整が必要になったというだけの話だ。
キシェナでの用件を済ましたゼラは、クリス村へ戻ってきていた。
向こうにはネイズを彼の配下ごとおいてきたため、帰りはキシェナにおいていた部隊の半分を連れて来た。ついでに事務仕事が出来そうな人間を数人雇ってきたから、これでやっとこの村の管理体制を作る事が出来る。
帰ってきてすぐは、まず捕らえた村の戦士の内、隔離しておいた使えそうなレベルの戦士連中を見て回った。さすがに特別に優秀な『黒』ランクの者はいなかったが、『青』ランクの者は数人いたのでそいつらがこちらの兵として使えそうかどうか、ゼラが直接話して判断してきた。
それだけでなく、逃げた村人が見つからなかった段階で、ゼラは追加の指示を出していた。今までは族長や集落の中心人物の身内は全て殺す事にしていたが、全員捕まえた後で分かった数名に関してはまだ生かしておく事にしたのだ。そちらについてもゼラが直接会って生かすか殺すかを決めなくてはならないのだが、さすがに戻ったその日は説明を受けて面構えを確認しただけで話すのは翌日に回す事にした。
「お疲れのところ、申し訳ありません」
「いい、さっさと帰ってこられなかった俺が悪い」
まぁ時間がかかった分、周辺の連中を一まとめにして話し合いを済ませてきた訳だが、それでも時間が掛かり過ぎてこちらでやる事を放置してしまったのは痛い。
そのせいもあるのか、帰ってきてからずっと傍について現状の報告をしながら案内をしているケイラは、心なしかやつれて見えた。
「お前に全部投げていって悪かったな。明日は仕事をしないで休んでろ、その間はエニからの報告を聞いておく」
そう言っても、真面目すぎる男はとんでもないという顔をする。
「いえ、やっと保留中の仕事が進められるので、休んでなどいられません」
「お前は真面目過ぎる。仕事をきっちりこなそうとしすぎて無理をしてただろ、お前に倒れられると俺が困るんだ。だからその前に休め、命令だ」
そこまで言えば、感極まったようにケイラは深く頭を下げた。
「分かりました。私の体にまで気にかけて頂いて申し訳ありません」
真面目なのはいいが、真面目すぎても困る。
責任感があって真面目な奴に権限を与えると安心できるが、その真面目人間自身がやたら消耗するという問題がある。まだ彼の下にもその手のタイプが何人かいればどうにかなるが、ナグラックの人間は大雑把で勢いと気分で動くタイプが殆どだ。一応事務仕事専属の部下をつけてはいるがそこまで優秀な訳でもない。彼一人がきっちりやろうとして仕事を抱え込んだのが容易に想像できる。
「キシェナから計算や管理仕事が出来そうな連中を連れてきた。そいつらはお前の下におく、好きに使え。商売人とやりとりをしていた連中だ、役に立つだろ」
「はい、ありがとうございます」
とにかくナグラックの人間は戦う事しか出来ない奴が多すぎるから、地味な管理仕事を出来る人材に苦労する。キシェナを早いうちに手にいれたかったのは、あそこならその手の仕事が得意な人材に事欠かないだろうという考えもあった。
「ここはいい土地だ。道から西側に残っている木は全部伐採して畑にする。湖では魚も取れるし、東の森では狩りが出来る。食料生産地として重要な場所になるだろう」
告げれば、ケイラの声が明らかに明るくなる。
「という事は、とうとう我らの街を作るのですね」
「あぁ、今のところこことキシェナの中間くらいを考えている」
「成程、あの辺りの丘陵地帯ですか」
ケイラにはかなり前から、ゼラがナグラックの頂点に立った後の計画を話してある。
今までの一時的な拠点を持つだけで、集落を襲ってはその時限りの糧を得ればいいだけだった暮らしをやめ、襲った集落を配下においてその地を治める。ナグラックに限らず他を襲って生活している部族は、奪うだけ奪って去っていくから周囲からは長年自然災害のような扱いを受けてきた。だがゼラは襲った連中を全て自分の配下に入れて支配地域を広げていった。今回まとめてこの辺り一帯を配下に収めた事もあって、やっと計画を形にしていく段階に来たというところだ。
「とりあえず、各部族の代表から労働力の提供については約束をさせてきた。管理体制が確立したら街づくりを始めるぞ」
ケイラは瞳を輝かせて言ってくる。
「そうして、我々の国を作るのですね」
ゼラがそこまで話している人間は、彼の他には今のところエニだけだった。
「あぁ、そうだ」
自分に一番忠実で真面目な部下である男は、そこで感極まったように跪いた。
「ゼラ様、貴方様に仕える事が出来た事が、私にとって最大の幸福です」
ゼラの野望、ってかここまで考えてる人物って話ですね。
次回はエニの話。




