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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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18・子供っぽい

 シオールは指示がない限りは基本的にアルスの傍についている。

 ただイノシシの姿が見えた後は、シオールは戦闘のために残って、アルスは皆と一緒に避難するものだと思っていた。ところが彼は途中で一人で戻ってきた。何事もなかったからいいものの、その間一人で歩いてきたのかと思うとぞっとする。ちなみにこういう、単独で危険のあるところで行動する、というのを彼がやらかしたのは初めてではない。前にも森で何度かあって、その度にシオールは注意していた。


『いや俺逃げ足だけは自信あるから大丈夫っ』


 というのがいつもの言い訳だが、村で平和に過ごしていた時ならまだしも、現状ではもっと自身の安全というのには気を使ってもらいたい。

 なにせ今、ここでアルスに何かあったらこの集団は崩壊する。レガンとジェアでは反発しあうし、マーナでは二人をなだめるのも止めるのも難しい。そしてなによりシオールは、主がいなくなったからといってレガンやジェアの指示に従う気はなかった。


――皆の事を考える時は慎重なのに、何故自分の事だと軽く考えるのか。


 そんな事を考えながらマーナやジェアと話すアルスを見ていたら、長い黒髪のあの女がほとんど気配もなく近づいてきた。


「うまくいったみたいじゃないか」


 シェノンだ。謎が多すぎるこの女性に対してシオールは自然と構えてしまう。


「えぇ、敵が丁度良く倒せるくらいの奴で良かったです」


 それには軽い笑い声が返る。勿論くす、っとしただけで人に見られて不審に思われるようなものではない。


「それは良かった。……で、お前は何を怒ってるんだ?」

「アルス様が自分の身の安全に関してあまりに無頓着だからです」


 今度はぷっと吹き出された。手で口を押えているが明らかに笑っているのが誰からも分かるだろう。


「そうだな、あの坊やにはもっと自分の身には気を遣ってもらいたいところだ」

「えぇ」

「なにせ今あの坊やがいなくなれば、この場の者達は間もなく全滅だ」


 さらりと言われた言葉に、ずっとアルスを見たままだったシオールはそこで彼女をちらと見る。彼女は意味ありげな笑みを浮かべてこちらを見てきた。


「お前はもし主が死んだなら、こいつらを見捨てるつもりだろ?」


 返事は返さない。やはりこの女は得体が知れない。


「……といっても実際は、死に際に皆を頼むと言われてそうもいかなくなるだろうがな」

「そういう『もしも』の話は聞きたくありません」

「だろうな。悪かった」


 思いのほかあっさり謝ってきて、それはそれでやっぱり不気味だった。何を考えているのか分からない。


「私もそれは望んでいない。あの坊やがこれからどうするか見てみたいからここにいる訳だしな。だから私は私なりに、あの坊やを守ろうと思っている」


 それは嘘には思えなかった。実際彼女はアルスとやたら話が合うようだし、アルスに対して興味津々という態度をとっている。


「あの坊やはよくやっている。知識があるだけではなく考え方が面白い。ただちょっとまだ子供っぽい甘さがあるから……そこは注意してやらないとな」

「そうですね」

「ちなみに子供っぽい甘さがあるのはお前もだぞ」

「俺が?」


 楽しそうに笑う黒髪の女を、思わずシオールは睨みつける。


「そこで余裕の表情を作れないのが子供っぽいんだ。自覚しておけ」


 見たところではシェノンの歳は二十台前半、自分たちより六、七歳上程度だ。だが彼女は時折やたら老人めいた、長く生きている者特有の目をする。

 本気で正体不明だし、謎ばかりの人物ではあるが……アルスに興味を持っていて、彼を殺したくないと思っているのは真実だろう。それさえ確かなら、シオールは彼女がいる事に文句はなかったし、彼女の言葉もある程度は信じるつもりだった。


これでこの章のアルス達の話は一旦終了。あとは終わり頃にちらっとあるくらいになります。

次回からは暫く、この章のメインであるゼラ陣営側の話になります。

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