17・合流
先に逃げていた人々とアルス達イノシシをせん滅した面子が合流したのは、元居た場所からそこそこ上流に上ったところで、やはり崖がえぐれてその下に隠れられそうな場所だった。とはいえ、前の場所からすればかなり狭い。さすがにここに暫く滞在しようという意見は出ないだろう。
とりあえず、元の場所を追い出された事で先に逃げていた面々の表情は暗かったが、合流したこちらの大荷物を見て明るくなる。
「うわ、なにそれなにそれ」
「すごーい、それお兄ちゃんたちがやっつけてきたの?」
「ねーねー、それ食べるの?」
まずは子供達がはしゃいで飛び出してくる。最近ずっとむすっとしていたレガンも、今回は得意げに言った。
「あぁ、そうだ。今夜は腹いっぱい肉が食えるぞ」
「わーい、お肉お肉ー」
子供達から遅れて大人達連もやってきてレガン達を囲む。ねぎらう言葉や褒める言葉、そしてやはり今夜の食事になるだろう彼等が持ってきた獲物に喜んで感謝する声があちこちで上がった。それを受けるレガン達は笑顔で、とても誇らしげだった。
アルスはそれを見て、大きく安堵の息を吐く。
――上手いぐあいに予定通り行ってよかった。これで彼等も落ち着くかな。
そこで隣にいたシオールに軽く肘で突かれる。アルスがはっとして顔を上げると、レガン達を取り囲む人々の外でじっとこちらを睨んでいるマーナと目があった。その近くにはジェアもいる。
アルスは急いで彼等のところに向かった。
「マーナ、ジェアっ、そっちも皆の護衛お疲れ様っ」
戻ったら真っ先に彼等に礼を言わなくてはならないと思っていたのに、レガン達を見ていたらつい頭から抜けてしまった。今回上手くいったのは、マーナやジェアが地味な役をすんなり引き受けてくれたせいだとアルスはちゃんと分かっていた。
「今回は奴に手柄たてさせてやったが、次はこっちに回してくれ。でないとうちの連中も納得しないからな」
「分かってる、とりあえず今回は本当にありがとうっ、感謝してるっ」
ジェアのこれは本音ではあるが、彼のグループの連中に聞かせるためにわざわざ声に出して言っているのもある。彼自身は今回の計画を知っているから納得の上でこの役を引き受けてもらっているので、この埋め合わせに関しては既に約束済みだ。
と、事情を知っている彼はそれで済むのだが。
「えーと、マーナ。シェノンさんの護衛役ありがとう。こっちのグループなのに一人だけ先に行ってもらってごめん、やっぱり女性の護衛は女性にお願いしたくてさ」
「いいわよ、分かってるから」
「え?」
文句や嫌味を言いまくられるのを覚悟していただけに、あっさりそれで終わったのには正直アルスは拍子抜けした。
「……いいの?」
思わず聞き返せば、すごい顔で睨まれたが、それでも彼女は怒鳴りつけてはこなかった。
「いいわよ。しつこいっ。私は私に出来る事をやるべきっていうのは分かってるから」
彼女がそんな事を言い出すとは思わなくてちょっとぽかんとしてしまえば、そっぽをむいたマーナの後ろから別の人影が現れた。いつも通りの事だがミーナだ、テイナもいる。
「でーも、実はちょっと拗ねてたのよ、この子。ほんとーは戦いに出たかったってー」
言いながら出てきたミーナはがばりとマーナに抱き着いて、わざとらしく頭を抱き込むように撫でた。当然マーナはそれに怒る。
「ちょっと姉さんやめてってばっ」
マーナが藻掻けば、やっぱりその足元ではテイナがきゃっきゃと楽しそうにマーナの足に抱き着いていた。それもあってマーナはへたに足を動かす訳にもいかなくてなって姉の腕から逃げられない。ミーナはますます妹を可愛がっていのだが、急にこちらを向いて言ってきた。
「あ、でもアルス、今回マーナはちゃぁんと真面目に護衛のお仕事してくれてたからっ。ぜひ、褒めてやってね♪」
「あ、はい、当然です。ありがとうマーナ」
それにマーナは何も返してはこなかった。ただ藻掻くのをやめてこちらから顔を逸らすと、後ろのミーナを本気で押して引き離した。
「ほらねーさん、これから皆で解体作業でしょ、テイナも手を離して、あっちにいくわよっ」
「はいはい。じゃ、アルス達は少し休憩してねー」
「てねー」
ミーナをマーナが押して、マーナの足にしがみつきながらテイナがついていく。マーナは相当歩き難そうだ。ついでにミーナとティナはこちらを振り向いて手まで振って来たから、アルスの顔も自然と緩む。とはいえ、去って行った彼女達を見送った後、考える事は一つ。
――マーナ、何かあったのかな。
彼女もちょっと考え方が好戦的すぎるから、冷静に立ち回れるようになればかなり頼りになるし助かるけど――と、そんな事を考えていたら、小柄な人間が多い人々の中で頭一つ抜けている長身の人物がすごい勢いでこちらに向かって走ってきた。
「アルスロッツ様、ご無事ですかっ」
女子供と老人ばかりだから、女性とはいえ戦士体格である彼女は目立つ。
「あ、あぁ、ドゥトスもお疲れ様」
普段は冷静な筈の彼女だが、自分の顔をじっとみてから明らかに安堵の息を吐いて言ってきた。
「シオールがいるから大丈夫だとは思いましたが、くれぐれも無茶はされないように。一人での行動は慎んでください」
「あ、うん。分かってるよ、はは……」
彼女としては本来の主を失ったところでもあるから余計に心配しているのだとは思うが、ちょっと耳が痛い。思わず視線をさまよわせたら、離れたところでこちらを見ているシオールが目に入る。
彼も、明らかに怒った顔でこちらを睨んでいた。
――え? 何? 俺、そこまで悪い事した?
次回はシオールとシェノンの話。




