15・作戦決行3
流れていく大きな体を見て、その場の連中が、はぁっ、と大きく息を吐いた。だがそこで。
「うわっ」
安堵したついでに体の力を抜いた一人が、深いところへ一歩踏み込んでしまったらしい。
「パルダっ」
怒鳴って向かおうとしたレガンより速く、シオールは槍を伸ばした。すぐ意図に気づいたパルダという男はぎりぎりで槍を掴む事が出来た。それでどうにか流されずに済んで、最後はレガンが手を伸ばしてそいつをひっぱり上げた。
「馬鹿か、最後まで気を抜くな」
「ははは……うん、ごめんレガン、ありがとう」
「良かったな、びっくりしたぜー」
パルダという男は、レガンにいつもくっついている取り巻きの三人の内の一人だ。残りの二人が、そのパルダに寄っていって抱き合っている。
岸に上がって状況を見れば残ったイノシシも退治は終わったらしく、こちらの被害はなさそうだった。
――丁度いい敵だったようだ。
どうやってこっちにくるよう誘導したのか分からないが、シェノンが呼び寄せた敵は『大きな被害が出ない範囲でぎりぎり倒せるくらいの敵』としてはぴったりの相手だった。偶然なのか、完全に彼女の読み通りなのかは気になるところではあるが、最良の結果と言っていいだろう。
「怪我人はいないか?」
レガンの声が聞こえてシオールは彼を見る。敵を撃退したとはしゃいでいる連中の中で、彼はまずその場にいる人間を数えて欠けている者がいないかを確認していた。
――確かに、感情的にならなければ、それなりに有能か。
彼の性格の悪いところは大人になれば割と抑えられるようなところばかりではあるし。どうにもアルスにつっかかってくるイメージばかりがあったせいで嫌っていたが、アルスが時折『優秀だ』と言っていたのも分かる。
「レガン、お疲れ様。皆は少し先に高くなっている場所があるからそこを上がってもらってるよ」
声が聞こえたと思ったら、アルスが皆が逃げた方から歩いてきた。途中から戻って来たのだと思うが、一人で戻って来たのだろうか。ドゥトスと一緒だと思っていたのに何をやっているのか――主を見るシオールの表情が険しくなる。
こちらの様子を察したらしく、アルスが引きつらせた笑顔でこちらを見てくる。
「あー、シオもお疲れ様。皆無事そうで良かった、なー」
そらぞらしい話し方をするあたりこちらが怒っている理由は分かっているようなので、シオールはひとまず溜息を一つついてアルスの前に跪いた。
「大イノシシは足を怪我させた上で川に流しました。少なくともすぐに戻ってくる事はないでしょう」
それを聞いてアルスはすぐレガンの方を向く。
「レガン、他は全部倒せたのかな?」
レガンは多少むっとした顔をしたが、それでも今は機嫌がいいのかちゃんとアルスに向き直って口を開いた。
「いや、一匹逃がした。四匹は倒した」
「怪我人は?」
「すぐ治療しないとならない程の怪我人はいない」
「装備の破損は?」
「盾が三つ、少し壊れた。修理可能な範囲だ」
そこでアルスはにこりと笑う。
「流石レガン、ちゃんと確認してあるんだね」
「まぁ……次の敵がいつくるか分からないからな」
「だね。じゃ、さっさと皆と合流しようか」
「……あぁ」
レガンが大人しくアルスに同意する。そんな彼をシオールは見た事がない。戦闘で敵を倒せたせいで彼の中の欲求不満が解消されたのか、あとはアルスが褒めたからもあるのかもしれない。
「それでさレガン、折角だから倒したイノシシは持って行きたいんだけど、二匹くらい持って行けそう?」
「別に、全部持っていけるだろ」
「多くあっても保存方法がないからね。処理も大変だし。それに放置しておいた奴は、その内他の動物が食べにくるだろ。そうすれば動物同士の争いあとに見えるかもしれない」
「分かった、なら二匹持って行かせる」
「ありがとう、皆きっと肉が食べられるって喜ぶよ」
レガンが少し目をそらして照れ臭そうにする。
それでシオールも気づいた。イノシシを持って行かせるのは何も食料とするためだけではない。目に見えた成果を見せられるのと、しかもそれを食べて皆がレガン達にこぞって感謝するだろうことも見越してだ。
昨夜シオールは『今回はレガン達に手柄を取らせてやって欲しい』とジェアに頼みこんでいたアルスを見た。おそらく、最初からアルスはここまで考えていた。自分を嫌ってる人間に対してここまで考えられるのも、アルスが感情を切り離して純粋にその人間の能力だけをみているからなのだろう。
本当に、我が主は面白い人間だ、とシオールは苦笑と共に思った。
次回は一方その頃……のマーナの話。




