14・作戦決行2
「敵がきたらまずはこっちで相手する、お前は敵が逃げて皆の方に行ったら対処しろ」
そういってレガン達はシオールを押しのけて敵が来るとすれば真っ先に戦闘になるだろう最後尾に陣取る。アルスの読み通りだから黙って従うが、完全に任せて被害を出す訳にもいかない。
「皆急いで、あと、持っていくのが厳しいと思った物については川に投げてね」
アルスが、なかなか準備が出来ず遅れてる者達に向かって声を掛ける。一応歩くのが厳しいくらいの老人はジェアのグループの者が背負ったりしてくれているが、歩けるものの動作が遅いくらいの老人や、小さい子連れの女性はすぐには逃げられない。
そうこうしている内に、川下方面にそれらしい影が現れた。多分、向こうも様子を見ているのか、こちらにすぐ突っ込んでこないで止まっている。
「きたよ、急いでっ」
アルスが声を張り上げる。それを聞いて前の方でも皆を急かす声が飛び交う。パニックとまではいっていないが驚いた人々がそれぞれ声を上げて、やっと人々は逃げるために動き出した。アルスは更に声を上げた。
「焦らないで、走らなくていいから、皆まとまって逃げるんだ」
とりあえず現状では戦闘はレガン達に任せるつもりで、シオールもまずは逃げる人々のフォローに回った。ただアルスから、いつでも戦えるように老人や子供を背負ったりまではするなとは言われている。
『シオの最優先すべき仕事は何かあった時に戦う事だ。だから、その何かが起こりそうな時にすぐに動けない事はしないでくれ。そういうのは俺がやるから』
そこまで言ってくれる主のためなら、こちらも戦闘で常に最大の成果を出せるようにしなくてはと思うではないか。実際、アルスの奴隷になってからシオールは腕をかなり上げていた。
「来るぞ、あれは何だ?」
レガンの声に、シオールは振り向いて後ろを見た。
「イノシシ? ってなんだありゃ、でけぇ」
あれから走りだしたらしい敵はもう姿がある程度確認できる距離まで近づいてきていた。確かに、姿かたちはイノシシだと思うが、やたらデカイのが一匹いて、数匹の普通サイズのを引き連れていた。
――大丈夫か?
レガン達にまずは任せるつもりではあるが、あれはマズイかもしれない。まだ遠いから正確には分からないが、大きい奴の体高は大人の男くらいはありそうだ。
「俺がデカイのを相手する、他のはお前ら頼むぞっ」
レガンが言って前に出る。他の連中はその左右に立って壁を作る。指示はいいとして、一人であれを受け持てるのかは少し不安が残るな――とシオールが思ったところで、レガンがこっちを向いた。
「そっちにいったら皆の方にいかないように逸らしてくれ」
これにはシオールも驚いた。無謀にも大物を倒していいところを見せようとしているのではと疑っていたが、確かに彼は戦闘時の判断はマトモに出来るようだ。
「分かりました」
シオールはレガンの少し後ろで槍を構えて待つ。敵が近づくにつれ、レガンの横にいた連中が間隔をあけて広がりながら前に出ていく。中心から離れる程前に……敵を取り囲むつもりだろう。
「来るぞっ」
レガンの声に、おー、と回りが声を上げて、やってきた敵に向かっていく。正面からぶつかっていかず横から行こうとするあたり、何も考えていない動きではない。そしてレガンは、やってきた大物にやはり正面からぶつかっては行かず、ぶつかる少し前に横に逸れて敵の足を斬りつけて離れた。高い鳴き声が響く、大イノシシは失速して斬られた右足側に進路を少し変える。だがその走り自体が止まる事はない。
それでもその先にはシオールがいた。
シオールは大イノシシの前に立って、突進を躱すと同時に槍の柄で頭を叩いた。右に逸れていた進行方向が更に右へと曲がり、イノシシは崖に向かっていく事になる。
足裏の振動と共に、ドン、という音が辺りに響く。それにレガンが向かっていくのを見て、シオールは他の連中の方を見た。
――そっちは問題がないか。
一撃でいきなり仕留められた者はいなかったようだが、それでも避けながら何度か斬りつけて既に行動不能にまでしたのもいたようだ。このまま任せても大丈夫そうだとシオールは判断する。問題はやはりレガンの方だろう。
崖に激突して動きを止めていた大イノシシに、レガンが横から斬りつけに行く。だが直前にイノシシがぶるぶるっと体を震わせた事で、彼は一旦飛びのいた。イノシシが崖からレガンのいる方に方向転換をする。そこから数度足元を蹴り、彼めがけて突進していく。レガンは勿論避ける、正面から止められないと判断出来ている分、冷静だ。
そのイノシシの前にシオールが回り込む。レガンが斬りつけた足に向けて今度は槍の穂先を向けて構える。剣よりもこちらの方が斬りつけて逃げるのは楽だ。足を刺すと同時に飛びのいて離れる。再び足に怪我を負った大イノシシはよろけてはいるもののまだ倒れない。ただ奴が進む方向には今度は川があった。倒れないものの止まる事も出来ないのか、大イノシシはそのまま川の中に入っていく。それをレガンが追う。追いながら怒鳴る。
「手が空いてる奴は来いっ、奴を押せっ」
成程そういうつもりか――シオールもすぐに向かう。レガンは勢いをつけて、奴の尻に肩からぶつかっていった。彼以外にも二人が、レガンにならってイノシシにぶつかっていく。川は岸から少し離れると急に深くなる、そこまで押し込むつもりだろう。シオールも川に入っていったが、押すのを手伝うのではなく怪我した方のイノシシの足を更に槍で突いた。今度はかなりの深手になった筈で、さすがのイノシシもその足を折って川の中に崩れる。そこをレガン達が今度は横からぶつかっていく。イノシシが倒れて大きな水しぶきが飛ぶ。尚もレガン達が押しに行こうとするのを制して、そこはシオールが槍で最後の一押しをした。ぷかりと浮かび上がった大イノシシの体が流されていく。イノシシは体勢を立て直そうと藻掻いたが足がつかないため流されるしかない。この川は流れが速い、いくら奴が泳げてもあの状況から岸に戻るのは簡単ではない。それが出来たとしても、相当流された後になる事は確実だろう。もし幸運が重なってすぐ岸に泳ぎ着けたとしても、あの足ではそうそうに戻ってこれる筈はなかった。
このシーンはあと一話。




