12・同じ轍は踏まない
「何、岩の民の連中がいなくなっただと?」
ナグラック族の特徴である赤い髪を振り乱して、現在ナグラック族全体の族長である男は椅子から立ち上がって怒鳴り声を上げた。
「はい、行った時には誰もおらず……」
「探したのか?」
「は、はい。ですが、見つかりませんでした」
「この……くそっ」
縮こまる部下を更に怒鳴りつけそうになったが、それをやめて洞の民の頭領でもあるグストは舌打ちをした。ここで怒っても仕方ない。頭に血が上りやすい自覚はあるから、椅子に座って一度大きく息をすると、グストは背もたれに頭を預けた。
「まずは報告に戻りましたが、戻って探し……ますか?」
「そうだな……最小の……いや、いい」
「良いのですか?」
「あぁ、どうせ簡単に見つからないか、見つけたとしてもこちらから捕まえに行くのは難しいところにいるだろうよ」
それでその兵を下げさせて、グストは目を閉じて大きく息を吐いた。
――さて、次の手はどうするか。
土の民の頭領となったゼラという若造は、想定外のスピードで戦果を上げていた。
勿論それを放置しておくグストではなく、まだ選択肢が多くあるうち、数打てばあたるつもりで思いつく限りの手は打っていた。
岩の民へ使者を出し、同盟を組む事はその中でも特に重要な手の一つだった。だが約束では六日以内に向こうから返事を持った使者が来る筈だったそれは来ず、催促の使者を送ったらもぬけの空だったという訳だ。
「やつめ、最初から返事を返す気がなかったな」
顔の下半分を覆う赤い髭を撫でながらグストは考える。
岩の民の戦力は数だけで言えば大した事はない。だが岩の民を率いるドーレアは頭がいい。数少ない戦力で上手く襲撃を成功させ、自分より強い相手には先読みと立ち回りで切り抜ける。配下の戦力的にナグラックの中でトップを取る事はないが、トップが変わってもいつも安定した地位と発言力を保持している。
彼の頭が欲しいから穏便に同盟話を持って行ったが、向こうは最初からどちらにもつく気はなかったと見える。
――まぁいい、最悪の事態ではないからな。
少なくともこれなら、ドーレアがゼラにつく事もない。
年齢的に自分に次ぐ歳のドーレアが簡単に若造の下につくとは思っていなかったが、この状況で姿を隠したという事はどちらにもつかないという意思表示だろう。ただしこちらが不利になった途端、唐突に出てきて向うにつくのはあり得る話だ。逆にこちらが優位に立てば、何食わぬ顔をして手伝おうとか言ってくる、ドーレアはそういう男だ。
だからグストは同じ失敗を二度する気はなかった。ふん、と軽く鼻を鳴らすと彼は椅子から立ち上がった。
「岩の民のことはもういい。よし、戦支度だ。出発は明日の早朝、分かったな」
部屋の中にいる部下たち全員に聞こえるように告げれば、それぞれがやりかけの仕事を放り出して彼等の頭領の前に集まってくる。
「承知しました、すぐ準備に取り掛かります」
「我ら常に戦準備は出来てます」
「なんなら明日と言わず、今からでも!」
自分の前に跪く、部下たちの言葉にグストは目を細めた。いかにもナグラックの戦士らしい、頼もしい言葉だ。
「まぁ焦るな、今からだと遅くなりすぎる。明日、日の出と共に出発だ」
それを受けて皆が更に頭を下げる。だが、その中の一人だけが顔を上げて聞いてきた。
「それで頭、今回の狙いはどこになりますか?」
グストは自慢の赤い髭を手の平全体で撫で、少しもったいぶってから口を開いた。
「我らが同族、川の民だ」
途端、部下たちの間にざわめきが起こった。
そう、同じ轍は踏まない。交渉などしようとせず、さっさと力ずくで取り込んでしまえばいいのだ。
って事でナグラック族内での争いが始まっていきます。
次回はアルス達の方で作戦決行となる話です。




