11・気は済んだか2
ゼラは呆れたように軽く息を吐いた。
「まぁいい。忠告はするが好きにすればいいさ。どうせ武器を変えてもお前じゃ俺には勝てないしな」
「ったく、むかつくくらいの自信だな」
「事実だろ」
「この戦い方で、いつか絶対勝ってやるからな」
「せいぜい強くなってくれ。……あぁだが、暇だからといって強制で俺に相手をさせるのはやめろ。俺は忙しい」
結局、この男がこうして仕掛けてきたのは単に暇で力を持て余しているからだ。今日のように二人だけの時ならまだいいが、部族外の人間に見られたら仲違いされていると思われかねない。
ネイズは明らかに不満そうにこちらを見上げてくる。
「えー……でもよ、他の奴とやっても全然面白くないんだよ。エニちゃんもいないしさぁ」
現時点でゼラ本人を除いて配下で強さの順位をつけるとしたら、ネイズが一番で、おそらくその次がエニだ。とはいえ彼とエニでは強さの方向がかなり違う。ただエニならネイズの剣を見切る事は出来るので、少なくとも手合わせがすぐに終わる事はないし、油断すればネイズが負ける事もある。だからエニがいるとネイズは勝負しようと煩いため、エニはこの男を嫌っていた。
「エニにちゃん付けはやめておけ、怒られるぞ」
「その怒った顔がいいんだって♪」
ゼラは今度は見せつけるように盛大にため息をついた。
すると胡坐をかいて座ったまま、ネイズは急にこちらを睨みつけると声を変えて怒鳴ってきた。
「ってかよ、そもそもいつになったら戦いが始まるんだよ。ここ落とす時も戦闘なかったし、ここに使者送ってきた連中なんか最初からまったく戦う気ねーし。クリス村じゃてめぇがさっさと決闘で終わりにするしよぉ。六英雄なんてのがいるなら絶対こっちにも出番が回ってくると思ってたのに不完全燃焼すぎんだろっ」
何処までもナグラック族らしいネイズは、戦いが大好きだ。
そして当然、彼に限らずゼラの配下は皆戦闘好きで、周囲の部族が戦いもせずに降伏してくる様子に落胆して、彼のように戦闘がない現状に不満を訴えている者は多い。
「これから一気に配下が増えるからな、暫くは戦闘よりも地盤固めだ。治めるための制度を作らないとならない」
「それはお前の仕事だろ。その間俺はウチの連中連れて更にお前の配下を増やしに行ってやるよ」
それにはさすがにゼラも声を低くして一睨みしておく。
「勝手はするなよ」
「俺は戦いたいんだよっ!!!」
まるで駄々っ子だ。仕方ない――もう少し黙っておきたかったが、犬が檻を抜け出して勝手に喧嘩を売りにいってしまう前にエサを見せておくかとゼラは思う。
「俺が動かなくてもじきに戦いは始まる。こちらの地盤固めが終わるまで、グストが黙っている訳がないだろ」
戦いに飢えていた男はそこで明らかに瞳を輝かせた。
「奴はもう動いてるのか?」
「エニが襲われた」
「え? いいなー、俺ンとこにもこないかなっ」
「エニにはお前がそう言っていたと伝えておく」
「いや、冗談だよ冗談。で、エニちゃんなら一人くらいは生かしておいたんだろ?」
この軽口は、エニが襲われても自力で撃退したことを疑っていないからだ。ただ自分の方が刺客に狙われたかったというのは完全に本音だ。
「あぁ一人捕まえてあるそうだ、こっちの会議が終わったら尋問に行く」
そう返せば、期待一杯の目で彼はこちらをじっと見てくる。
「俺は?」
この男の反応は単純すぎて分かりやすい。まるで遊んでもらいたくて飼い主の前に座っている犬のようだ。
「お前はまだここにいろ。ただし、配下を連れていつでも出られるようにしておけ」
「つまり、我らがナグラック族の現族長様が近々動きそうって事だな?」
「そうだな、奴は川と岩に同盟を持ち掛けていた……が、岩がつい最近逃げた」
「ってなると……次は待たずに動くだろ」
「あぁ、族長様は気が短いからな」
ネイズはにっと嬉しそうに笑みを浮かべると、勢いをつけて跳ねるように立ち上がった。
「勿論、最初に戦いが起きそうなところに行かせてくれるんだよな」
「あぁ、今度はちゃんと約束してやる」
よし、とそこで拳を振り上げる男はそのまますぐにどこかに行きそうで、ゼラはとりあえず彼にまだ待つようまた釘を刺しておかねばならなかった。
戦闘面においてはこのネイズがナンバー2な段階で、ゼラは苦労するしかない訳です。
次回は軽く現在のナグラック族長であるグストの話。




