10・気は済んだか1
キシェナの街はそれなりには賑わっていた。
ただやはり、ナグラック配下になった事で警戒して近寄らなくなった連中も多く、市場が再開しても前と同じ程の賑わいはない。
ゼラとしては、今はそれで構わない。
どうせこの辺り一帯の連中は大体配下に入って、そうすれば連中は安心して市場にやってくるようになるだろう。問題を起こさない限りは危害を与えられないと広まれば、それ以外の連中だって戻ってくる。そのあたりの見通しについては、割と楽観的にゼラは考えていた。
――あの入れ墨の模様はグラット族か、市場を見に来たというより偵察だな。あの帽子はクーダン族だな、向こうはパシェ族、ナウニ族……。
族長の家は石造りで屋上があった。そこから下を眺めれば市場の様子がよく見える。そのための屋上だろう。どのあたりの連中がきていて、どこが来ていないのか、ゼラは人の流れや行動をみながらチェックしていた。
そこへ、人の気配がやってくる。
「おいゼラっ」
騒がしい足音だけで誰かは分かっていたが、そこで怒鳴られてゼラも仕方なく振り返った。途端、両手それぞれに剣を持ったネイズがにやりと笑って構えをとる。みなぎる殺気を隠す事もなく、そこからすぐ、彼はこちらに向かって走ってきた。
ゼラも腰の剣を抜く。手元に盾はないから剣を両手で持って構える。元からゼラは片手剣にしては少し長めの剣を使っているが、こういう事もあるから通常時に持って歩く剣は柄も長く作られていて両手でも持てるものにしていた。
ネイズの右からの一撃を、まずは剣で受ける。するとすぐに向うの剣は引かれて今度は左からもう一本の剣がくる。当然、それもゼラは剣で受け、今度は向うが引くより早く力任せに弾き返した。
砂の民の頭領に選ばれる男であるから、純粋な腕力だけの話でもネイズが一般的な戦士以上な事は確かだ。だが多少力があっても両手持ちの剣に片手剣で力任せが出来る訳はない。しかもゼラはネイズより腕力がある。当然、彼は剣だけではなく体ごと弾かれ、体勢を崩しつつ自ら大きく後ろに飛んだ。
「この馬鹿力め」
悪態をついてはいるが、ネイズの顔はやたら嬉しそうだ。
ゼラはため息をつきたい気分だったが、向こうがこっちを殺す気で来ているのは分かっているから手を抜く訳にもいかない。テキトウに相手すれば痛い目を見る。彼は油断して勝てる程弱くはない。
「いくぜっ」
怒鳴ると同時にまたネイズが向かってくる。ゼラもその場で腰を落として相手を待った。こちらへ届く直前、ネイズは床を蹴って飛び上がる。上から二本同時に剣の刃が振り下ろされる。
――腕力で勝てないから落ちる力まで使って押し切る気か。
しかも二本同時に落としてくるのは面白くはある……が、その二本が狙っている場所がほぼ同じでは芸がない。ゼラは両方の剣を同時に自分の剣の刃で受けて完全に止めた。当然、一歩も足は動かない。
「げ……」
ネイズの顔が驚きに見開かれる。唇が、マジかよ、と動く。だがすぐに彼は思いきり顔顰めて舌打ちした。
ゼラは腕に力を入れ、両方の剣をまとめて思いきり押して弾く。それから即座にしゃがみ、吹っ飛ばされて地面に着地したばかりのネイズの足を払った。
「うげっっ」
カエルのような声を上げてネイズが盛大に転がる。さすがの彼もそこで負けを認めたのか、そのまま上を向いて大の字になった。
「気は済んだか?」
寝てる男を上から見下ろせば、砂の民の頭領でもある男はちょっと不機嫌そうに口を尖らせた。
「まー少しはな」
いって勢いをつけて起き上がると、どこまでもナグラック族らしい男はその場で胡坐をかいた。
「ただすぐ終わったからな、もうちょっと楽しみたかったぜ」
「お前が弱いのが悪い」
「うるせえ、馬鹿力め」
「くやしかったら強くなれ。いい加減二刀はやめたらどうだ」
「うるせぇ、誰もやらないから面白いんだろ」
「誰もやらないのはメリットがないからだ。お前なら二本使うよりはまだ両手武器の方がいい」
「俺がやりたいからいいだろ、実際お前以外なら勝てるんだからよっ」
そこは確かに。今のところ彼があのスタイルで戦って勝てないのはゼラだけだ。わざと不利な戦い方をしていても、他から文句を言われないくらいにはこの男はそれで強くなっている。だからゼラも、本気で止めろと強制はしない。
ネイズが二刀でやってるのは、他にやってる奴がいなくてかっこよくて目立つから、です。
このシーンは次回まで。




