9・手段2
「あら、何?」
ミーナが言って立ち上がる。アルスにもそれは聞こえた。
川の音にまぎれても微かに聞こえる高い笛の音。音の出どころはすぐ分かって、皆から少し離れて立っている長い黒髪の持ち主――つまりシェノンだ――に、皆の視線が集まる。
続けてわっと声が上がった。
青い空からふわっと黒い影が落ちてくる。それはアルス達の頭上を通過してシェノンの腕に止まった。そこでようやくそれが何か皆分かる。黒っぽい鳥、おそらく梟だった。
「すごーい、それ飼ってるの?」
「かわいーみせてみせてー」
すぐに子供達が目を輝かせてシェノンの方に走っていく。更に若めの女性陣も彼女の方に向かっていって、あっという間に彼女は取り囲まれた。
「ねぇ見た? あの鳥は梟? かわいいわねー」
傍にいたミーナも行きたそうしていたから、アルスはそれを後押ししておく。
「行って見せてもらえばいいんじゃないですか? なんなら触らせてもらえるかも」
「そ、そうね。じゃぁアルス、何か相談したかったら言うのよ」
「はい、お願いします」
それで彼女はシェノンの方へ走って行った。女性はかわいいものが好きなんだなぁとしみじみ思ってしまったアルスだったが、見渡せば戦士見習い連中も皆シェノンの方を見ていて行きたそうな顔をしていた。女子供が集まってるところに行きにくくて我慢しているらしい。
ちなみにアルスは言えばあとでじっくり見せて貰えるかなーと思って、今は近くに行く気はなかった。
「それ梟よね? あなたのペットなの?」
「え、梟って昼間でも目って見えるの?」
「あぁ、梟というと夜目がきくイメージだろうが、昼間でも問題なく目は見えるし活動出来る。夜も昼も使えるから他の鳥より伝達役として使い勝手がいいんだ」
「へー、そうなの」
シェノンも集まってきた皆の質問に快く答えている。
つまるところ、彼女が昨夜言っていた敵を探す手段というのがあの梟な訳である。彼女はこの辺り一帯の調査をするにあたって、彼女の地元とはあの梟で連絡を取り合っているらしい。また動物除けの結界だけではなくあの梟にも周囲の探索をさせていて、危険があれば知らせてくれるそうだ。
これでまた一つ、彼女が一人でも旅が出来る理由が判明した訳だが、まぁこれはこちらの常識的にもあり得る範囲のものではある。梟は聞いた事はないが、鳥を使役して連絡を取り合っている話は割とあちこちで聞く。
「ねーこの子、名前はあるの?」
「あぁ、パトラだ」
「へー触っても大丈夫?」
「大丈夫だ、ただし触るのは一人づつにしてくれ。いっぺんに触られると驚く」
「はーい、そりゃそうよねー」
相変わらず女性陣は梟に夢中で、ミーナも触らせてもらって嬉しそうにしている。いや楽しそうでなによりだなー――なんて思う訳はなく、ちょっとキリなさそうでアルスは不安になってくる。
ただ、さすがにその辺りはシェノンも考えているらしく、触らせるのが一巡すると腕を手前に近づけ、梟にエサを与えながら言った。
「皆、悪いがそろそろいいだろうか。こいつには仕事をしてきてもらうからな」
周りもある程度満足したのか、はーい、と機嫌よく返事をして、皆シェノンから一歩引いた。
「ではパトラ、危険そうな動物を見つけたら教えてくれ、いいな」
――え、それ、そのまま言うの?
と思わず驚いて彼女の顔を凝視してしまったアルスだが、シェノンは涼しい顔でこちらを一瞬見ただけだった。
「まぁ、その子、周囲を見て来てくれるのね」
「お利巧ー」
あ、そうか。普通そう命令したら単に危険を知らせてくれって意味に取るよね――と、女性陣の反応を見てアルスも納得した。
まさかその動物をおびき寄せるために見つけてこい、と言っているなんて普通思わない。更にシェノンはこう付け加えた。
「実は動物除けの結界に使う材料が足りなくなってきていてな。だから結界は夜だけにして、明るいうちはこいつに見張りを頼む事にした」
確かにそういう事にしておけば彼女の結界にケチがつかない。そこまで考えてさらっと嘘をつくあたり、やはりなかなかのくわせものだ。交渉の時に彼女がアルスに嘘を言っているとは思ったことはないが、都合が悪い事は言わないようにしているのは分かっている。シオールからは既に何度も注意されているが、彼女に気を許し過ぎるのはやっぱり危険だろう――アルスは改めてそう思った。
次はキシェナにいるゼラの話。




