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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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8・手段1

 高い壁に囲まれている谷の中では声はよく響く。

 ただ、流れの速い川が流れているおかげで、普通に話すくらいならば声は川の音にかき消されて上にまで届く事はない。


――それでも、子供の声は通るからなぁ。


「こら、いくら楽しくても大きい声をだしちゃだめでしょ」


 はしゃぎ過ぎた子供達をミーナが叱るさまを見て、アルスは困ったように笑った。テイナと共に子供達の面倒をまとめて彼女がみているらしい。

 やっぱり、もっと遠くまで逃げないと子供達が安心して声を出す事も出来ないよね――と考えながら胡坐をかいてアルスは周りをぼうっと見渡す。ちなみに、シオールやドゥトスは例によって戦士未満連中の訓練に付き合っている。マーナもそっちで訓練中だ。いつも通りレガン達はそっちに参加はしていないのだが……。


「それ以上はいくなっ、この川は急に深くなるぞっ」


 どうやら彼等は訓練に参加しなくてもアルスのようにさぼっている訳ではなく、川にくる連中の見張りをしているらしい。いつも連れている取り巻きの三人と一緒に川岸に立っている。注意するのは勿論、流された人がいたら助けるつもりだろう。


――ほんとに、基本的には優秀なんだけどなぁ。


 レガンは強いし、面倒見がよく、統率力もある。やる事が決まっていればそのために出来る事を考えて実行するくらいの頭もある。それだけの能力はあるのに、感情的過ぎて、考え方が子供っぽいのだ。頭にすぐ血が上るし、視野が狭くて悪い意味でのプライドが高い。思い込んだらそれしか見えず、これが正しいと思ったら頑として他を認めない。


――父上達みたいな絶対的なリーダーがいて、その指示の下で働くなら有能なんだろうけどなぁ。


 今は彼が無条件で従うような上の人間がいないから『自分がリーダーとなって指揮をとるべきだ』というのに固執して意地になってしまっている。そのせいで孤立して余計焦って……という悪い循環に入ってる。それでも皆のために役立とうと出来る事をしているのだから優秀ではあるんだけど、とアルスはため息をつく。

 そこへ近づいてくる人物がいた。


「どーしたの? ただサボってるんじゃないんでしょ?」

「あ、ミーナさん」


 さっきまで子供達を見ていたミーナが来て、近くに座る。どうやら子供の面倒は一旦休憩らしい。他の女性が今は子供をみていた。


「いやー……皆、すっかり安心しちゃってるというか、ここに慣れちゃってるなーというか……」

「ここから移動しようって、言い出し難い?」


 にっこりと笑顔でそう言い返されて、アルスはがくりと首を落とした。何気にやっぱり彼女は鋭い。


「……ですね。やっぱ、折角ここで落ち着いたからまだ移動したくないって思ってる人も多いんだろうなぁって」

「そうねぇ、ここに来るまでがつらかったから、もう暫くここにいていいんじゃないって思ってる人は多いかな~」

「ですよねぇ」


 子供はともかく、大半はここではまだ安全だとはいえない事を分かっているとは思う。それでももう少しだけここで平和な時間を過ごしたい、という事なのだろうが、ずるずるといつまでもここにいればその内見つかる可能性が高い。


「特に老人はね、歩くのがきついのもそうだけど、村からあまり離れたくないっていうのもあるみたい」

「あー……そうですね、そういうのもありますよね」

「婆様はどうって?」

「好きなようにしなって。いざとなったら説得してくれるそうです」

「なら、よかったじゃない」


 そう、婆様たちはアルスのいいと思うようにしろと言ってくれている。


『お前さんの判断ならそれが最適解だって思うさ。少なくとも今ここにいる者の中で、お前が一番正しい答えを出せる筈だ、私らはずっとお前を見てきたからね』


 だからといって、アルスは皆が反対する中で自分の意見を通そうとまでは思わない。無理に通せば、それが不和の種となってあとで取り返しがつかなくなる。


――ま、今回のも強硬手段といえばそうなんだどさ。


 正直皆をだますような手は使いたくなかったが、手遅れになる前にここから動かなくてはならない。ちなみに婆様にはちゃんと例の計画は伝えてある。伝えた上で、あの言葉なのだ。


次回はこの続きでシェノンが敵を探す方法。

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