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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
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5・最初の印象

 最初に見た印象は、確かに弱そうだ、だった。

 とはいえサリドには恩があるし折角の『いい主』であるから、その息子がどんな人物であろうとシオールはちゃんと仕えるつもりだった。

 だからこのご時世に男のくせに本当に弱そうな主でもがっかりはしなかった。弱いから守ってやってくれと最初から言われていたし、それにもう一つ、興味を引く事も聞いていたからだ。


 サリドの部屋を出てからついてくるように言われ、シオールはアルスの後ろを歩いていた。彼からは時折唸るような声が聞こえてはいるが話しかけてはこない。察するところ、何を話せばいいか分からず困っているのだろう。ただその時間もすぐに終わる、目的地らしい部屋についたからだ。


「さて、ここが俺の部屋だけど……どうするかな、父上に言ってお前のベッドを作ってもらおうか」


 いいながら彼はランプを台に置いた。シオールは部屋に入ってすぐ中を一通り見渡すと、部屋の中央まで入らずそのまま入口で立ち止まった。


「必要ありません。俺は貴方を守るのが仕事です、ここで座って寝ます」

「いや……寝床が用意できるまでは仕方ないかもだけど、ずっとそういう訳にはいかないだろ」

「別に困りません。それよりすぐ動ける体勢である方が安心出来ます」


 護衛役としてはそれが当然だし、いざという時に行動の選択肢が多い方が安心できる。だからそう言ったのだが、主となった少年は困ったような顔をすると人差し指で眉間の辺りを軽く叩き、それから頭をぐしゃぐしゃと掻いたと思ったらこちらを睨みつけてきた。


「いいやだめだ。いいか、お前は俺の護衛としていざという時には自分の能力を最大限発揮出来るよう、常に体調を万全にしておく必要がある、だから睡眠はとれる時はきちんと取ってもらう。これは命令だ」


 言っている事自体は理にはかなっている――自分をちゃんと寝かせるための後付け理由の可能性はあるが。とはいえ、いい待遇を拒否する理由もない。ただし、寝る場所がないからと一緒のベッドで寝る事態にはなりたくないから言っておく。


「分かりました。ですが今日はここでいいです」

「うん……まぁ、父上に頼んではみるけど、さすがに今日中は無理だろうしなぁ」


 そこはあっさり了承してくれたが、すぐ彼はまた何か困った顔で考えだした。そのまま見ていれば、彼はまた頭を掻いて腕を組んで、それから上着を脱いで椅子に置いたところで急に振り返った。


「そういえばお前……シオールは、寒くはないのか?」


 その言葉の意図を少し考えたが、とりあえず全く寒くない訳でもない。


「寝る時には、掛け布を一枚貸して頂ければありがたいです」


 すると彼は焦った顔をして、すぐ部屋の奥の棚に向かって行った。


「あー気づかなくてごめん、まずはその恰好をどうにかしないとだよね。えーと、背格好は俺と似たようなものだし、当分は俺の服でいいか?」


――あぁ、服か。


 こちらの寒さを服装のせいだと取った彼は、急いで棚にある服をあさりはじめた。ただ言わせてもらえば立場的に服がボロでも当たり前だから、そこを気にする彼には少し驚いた。

 そうして主である少年は、焦る勢いで服を抱え込んでくるとこちらに持ってくる。


「とりあえず今はこれに着替えておいてくれ。多少のサイズ違いはベルトで誤魔化せばどうにかなるだろ」

「ありがとうございます」


 有難いことは有難いから、シオールは大人しく受け取った。

 それに嬉しそうに笑っているところを見るに、これはただの好意なのだろう。表情からも裏はなさそうだと判断する。


「服もそのうちちゃんと用意しておくよ。俺の服だと多分、動きにくいだろうし。あとは武具か……これは俺のを貸す訳にいかないから父上に頼むしかないかな。その他、何か欲しいものがあれば遠慮せずに言ってくれ。希望通りなんでもは無理だけど、出来る限りはどうにかするから」


 戦わないだけあって優しい性格か――と呆れたが、それにしても親切が過ぎる。この性格では確かに鍛えても使い物にはならないだろうと思って、シオールは思わず皮肉を込めて聞いてしまった。


「わざわざ、奴隷の希望を聞くのですか? 随分お優しいのですね」


 アルスは意外そうに、こちらを真っすぐ見て言ってくる。


「え? 俺、優しくなんかないよ」


 それにはシオールが驚いた。


「言っただろ、お前にはいつでもその能力を発揮できる状態でいてもらわないとならないって。だからそのために必要なものなら俺は主として用意する義務がある。お前が強いなら、その強さを必要な時に使えないと意味ないだろ?」


――確かに理には適っている。


「つまり貴方は、駒として俺を常に万全の状態で『使える』ようにしておきたい、という事でしょうか?」

「あぁ、そんなとこかな。だって、折角強いのに装備や体調のせいで実力を発揮できなかったらお前という存在を無駄にしているようなものだ。そのせいでお前が負けるような事があれば主である俺の責任だろ」


 当たり前のように言う彼に、シオールは理解した。ベッドの話の時もそうだが、この少年がこちらの体調や希望を聞いてくるのはやさしさではない。それが自分という駒をよりよく使うために必要だと分かっているからだ。


「成程、理解しました」


 思わず薄く笑みが湧く。

 サリドが息子に対して言っていたもう一つの事、それが理解出来た。確かにこの少年はただ弱いだけではなく、面白いかもしれない。


「では、これからよろしくお願い致します」


 そう言って頭を下げれば、彼はまた少し考えたような素振りを見せて、それから言い辛そうに言ってくる。


「あぁうん、よろしく。えぇっと……シオって呼んでもいいかな?」

「構いません、アルス様」


 シオールがそう返せば、主となった少年はまた、笑った。


今回はシオール視点の話でした。


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