4・父2
実は父は今日、キシェナから帰ってきたところの筈だった。
キシェナはこの辺の部族が集まって作物や獲物の売買をする市場があって、そのせいで中立地帯となっている村だ。部族によって扱う品はさまざまで、例えばさっき聞いたナグラックのように他の部族を襲いまくるような連中は強奪した品や家畜、または潰した部族の人間を奴隷として売っている。
ちなみに既に父は愛人兼、身の回りの世話までする戦闘奴隷を二人持っている。先ほどのドゥディナはその一人だ。父は気の強そうな女性が好みで、だからそこの少女もある意味父好みと思ったのだが。
「まぁな。ちなみに俺のじゃないぞ、お前のだ」
「は?」
さすがに驚いて目を見開いた。
「それによく見ろ、こいつは男だぞ」
「うぇ?」
単に奴隷だから栄養状態が悪くて痩せてるだけかと思ったが、確かによくみると胸はないし体のラインも柔らかさがなさすぎる。母やマーナみたいな女性を見慣れていたから筋肉がついているのは気にしてなかったが、男だというのなら納得する。
アルスは暫く固まった後、顔をひきつらせたまま父に言った。
「父上、俺はそういう趣味は……」
すると父よりもその少年の方から睨まれた。髪の色も顔も白いくせに、その中で唯一濃い色のその目はなかなかに迫力がある。多分、性格も絶対きつい。そこで思わず腰が引けてしまえば、父サリドの大きなため息が聞こえた。
「アルス、俺はなっ、本っ当はお前にはいい戦士になってもらいたかったんだ」
「いやそれは分かってますが、人には得手不得手というものがありまして……」
それには負い目がある分、アルスも言葉を濁すしかない。だがそれに、父はあっさりきっぱり告げてくれた。
「まぁだが、それは諦めたっ」
「え?」
「もう今からじゃ例えお前がその気になってくれてもロクな戦士にはなれんだろう。だからもうお前に期待はしない事にした」
「……え……あ、はい」
なんだろう、いい加減諦めてくれ、とは思っていたが、そんなにあっさり諦められるとそれはそれで微妙な気持ちになる。アルスがそれ以上何も言えなくて黙ってしまえば、父は一つ咳払いをしてからにっと歯をみせて得意げに話してきた。
「だからその代わり、お前には特別強い奴隷をつけてやる事にした。言っておくがこいつは本当に強いぞ、この歳としてはちょっと驚くくらいだ。少なくともウチの村の同年代の連中で勝てる者はいない、もう戦士と認めていいくらいだと断言できる」
父がそういうのなら確かに強いのだろう。だがそれはそれで問題もある。
「父上、そこまで強い人間を全く強くない俺につけるのは危険じゃないかと思うんですが」
普通、子供に最初につける奴隷は身の回りの世話をする者、男なら将来の従者役が多く、基本は年下の者をつける。たとえば現在のアルスが十六歳であるから、それだと十歳から十四歳くらいの者をつけるのが普通だ。
護衛としてなら確かに強い人間をつけたいところではあるが、強い人間というのは弱い人間に従いたがらない。それにこの人物――少年は、顔つきからしてかなりプライドが高そうだし……と思って見ていたら、銀髪の少年は目を伏せて口を開いた。
「安心してください、サリド様には恩があります。だから俺はサリド様の息子である貴方を守ります」
成程、従ってくれるだけの理由があるから一応安全、と父は判断したのか。
ただ弱いから強い護衛を与えるなんて、そんな甘い親だったろうかと父の顔を見てみれば――目が合った途端に父はにかっとまた含みのある笑みを浮かべた。どうにも嫌な予感しかない。
「とは言ってもこいつは気難しいぞ。お前があまりにも情けなさすぎたら愛想をつかされる可能性はあるからな」
銀髪の少年はそれに何も言わず、ただこくりと頷いた。
アルスは顔を引きつらせたまま、よろしく、というのが精いっぱいだった。
それに相手は軽く頭を下げる。その彼の肩を父が叩いた。
「こいつの名はシオール。お前と同い年だそうだ。せいぜい寝首をかかれないように、いい主になるんだぞ」
息子にそんな物騒な奴隷を渡すか普通――とは思うものの、父の意図もなんとなく分かるから顔を引きつらせつつもアルスは父に礼を言った。
って事でプロローグで出てきた彼です。




