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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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6・東の森1

 クリス村は湖と森に囲まれた良い土地だ。そして村のつくりもよく出来ている。

 西の湖側から入るのなら水から木の壁を直接登らなくてはならないし、東の森側には高い木壁に掘りと罠、おまけに歩きにくい森の中からいかなくてはならない。北は壁がないがすぐ山があって、そっち側から攻めるとすれば東の森の中を北にずっといって回り込む必要がある。

 実質、それなりの人数で一気に攻めるなら南からしかないから、そこの壁と出入口の門が一番強く強固に作られている。


「南門の修繕はどうなってるの?」


 兄ゼラからこの村の警備を任されたのもあって、エニはまずそれをここの責任者であるケイラに確認した。


「大体終わっています。なのでエニ様は主に、捕虜たちの警備をしていただければ」


 こちらの襲撃は門からだけだったため、この村の防御施設は門以外はほぼ破損がない。だから門さえ直れば外からの襲撃にはそこまで気にしなくても大丈夫だとは言える。


「そう、でもここの状態をちゃんと把握したいから、バンダーがいる内に一度村の外周を一通りみてこようと思うの。あぁ、でも連れて行くのはあと一人でいいから、残りは捕虜の警備に回しておくわ」

「そう、ですか……分かりました」


 それには困った顔をしたケイラだったが、それでも止めたり、文句を言ったりはしてこなかった。とはいえかなりいろいろ言いたそうではあったから、あとで兄に愚痴るかもしれない。多少の小言は覚悟の上だ。



 ……と、いう経緯があって、エニは村人追跡をしていた人間からバンダーと戦士一人を連れて南門から出て東の森に入った。ここから村を囲む木壁沿いに村の北まで行く予定だ。

 ちなみに東の森と言ってはいるが、この村は西が湖、北がすぐ山なだけで基本的には森の中にある。ただ南門を出たところから真っすぐ、森をぬけて丘陵地帯まで続く道があるから、その道から東側の森全般を東の森と呼ぶらしい。道の西側は森という程広くなく、木も結構切られていて畑や果物の栽培などもしているから村人は森扱いしていないとの事だ。


「確かに歩きにくいけど、人が通った後はそこそこあるし、部隊を動かせない程ではないわね」


 森に入って歩き出してすぐ、エニが思った感想はそんなところだ。

 実際、森の中を歩き出してみれば、ちゃんとした道がないから歩きにくくはあるが十数人程度の小部隊なら移動に問題はなさそうだった。身軽な連中を選ぶ必要はあるだろうが、門から攻めると同時にこのルートで村の北へ向かう別動隊を出していれば、村人を逃がさなくて済んだのにと思う。


「まぁそりゃ、東の罠の点検とかもあるでしょうし、定期的に人は来てるでしょうね」

「森には誰もいなかったっていってたじゃない」

「あの時はいませんでしたよ。朝でしたしね。たださすがに村の隣にあるんですから、罠や壁の点検だけじゃなく狩りなり薬草探しなり、森に行く人間はいたんじゃないですかぁ? 入口には作業用に作ったらしい広場がありましたし」


 そこは否定できなくて、エニは口をとがらせて黙った。

 確かに襲撃の際、兄ゼラがバンダーに探らせたのは森にクリス村の戦士達が待機して待ち構えていないか、だった。背後から狙われないための確認だからバンダーは別に間違った事は言っていない。

 ただ、森から北へ向かう部隊を出しておきさえすればという思いがあるから、森の担当だったバンダーに文句を言いたくなってしまうだけだ。


「……というかエニ様、もしかして村の外周の確認に来た理由って、こっちに部隊を回しておけたかっていうのを確認したかったとか?」


 それにはさらにむっとする。この男の言葉遣いくらいはもう慣れたからいいが、配慮のなさは嫌いだった。


「それもあるけど、守る場合こっちから敵がくるならどういうルートでくるかとか、実際見ておいた方がいいでしょ」


 別に胡麻化すために言っている訳ではない。村人を捕まえられなかった事を引きずっているのは確かにあるが、この村の警備を任されたのなら事前に確認しておきたかった事ではある。


「まぁ、そうですねぇ。ただ、このへんはまだいいですけど、北にいけばいくほど歩きにくくなってまして、村の北の連中が集まってたトコまで行くのは少々面倒ではあると思いますよ」

「そうなの?」

「特に壁が途切れたあたりに段差があってですね、そこに上ってからはかなり足場が悪くなるんですよね」

「そう……」


 まぁこれだけ村の守りを強固に作ってあるのだから、そう簡単に森から北へ回り込めないようになっていて当然か。


「でもいけない訳ではないんでしょ?」

「えぇ、俺はいけましたよ」


 なんだろう、この男の返す言葉はいつもどこか含むものがある。そうは思うが、ここでいちいち騒がない程度にはエニもこの男に慣れている。


「じゃぁ案内を頼むわ。一旦自分で行ってみないと感覚がつかめないし」

「了解しました」


 そういってやけに恭しくお辞儀などしてくる男にエニは眉を寄せる。正直この男をエニはあまり好きではない。元奴隷の家だからと差別する気はないが、茶化したり何か含ませるような言い方は微妙に苛立つ。兄の前でもわりと太々しいところも気に入らないし、なんだか信用出来ない気もする。


――兄さまはなんでこんな奴をよく使うのよ。


 しかもこの男は単独行動の仕事を命じられる事が多い。戦士としてはそこまで強くはない分、身軽で隠密行動が得意だから仕方ないのだろうが。


 バンダーの言っていた通り、森は確かに北に行くほど歩きにくくなっていて、エニ達は足元を確かめながら慎重に歩いていた。当然先頭を行くのは道案内のバンダーで、本気で危険そうなところは注意してくるものの、彼自身は割とひょいひょい歩いていってそれについていくのはかなりきつい。


――なんで昨日まで歩き回ってた森の奥よりも、この辺りのほうが歩きにくいんだか。


 文句ばかりが頭に浮かぶが、怒鳴ったり怒ったりはしない。その体力が勿体ない。エニもかなり身軽な方だが、体格と体力では劣っている自覚があるから無駄な事はしない事にしていた。


エニの話はもう一話。

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