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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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5・訓練と思惑2

 はー、とため息をついてから、アルスは口を開く。


「そうなんだよね。ただ、皆疲れてるからもうちょっと休みたいって気持ちもわかる、でもさ……」

「あまり長くここにいると更に動きたくなくなる、だろうな」

「そーなんだよねー」


 ちなみにアルスの目も今、訓練の様子をじっと見ている。アルスの場合はドゥトスの動きは追えるから、見ているのは主に彼女の相手側だ。レガン達の訓練にはほとんど出ていないから、戦士未満連中の実力が分かっていない。だからそれを把握しておきたかった。


「でも流石に限界かな。今日はもう無理でも明日……最悪でも明後日には発ちたい」


 とはいえ強引に移動すると決めてしまうと、かなりの不満が出るのは必至だ。今はアルスに協力的な六英雄の奥方達もそれを受けて難色を示すようになるだろう。


「なら、移動せざる得ない状況にしてやろうか」


 そこで後ろから声を掛けられてアルスは思わず振り返る。立っていたのはシェノンだ。


「え? ……いや、どーするつもり、ですか?」


 周囲を気にしつつ声をひそめて恐る恐る聞けば、彼女はアルスの隣、少し離れて座っていたシオールとの間に入ってきて座った。勿論シオールはむっとした顔をしていたから、アルスは目で謝っておいた。


「動物除けの結界を作れるという事は、逆も出来るという事だ」


――聞き違いじゃなきゃ今さらっとヤバイ事言ったんじゃないかなー。


 言葉の意味に気づいてアルスの顔が引きつる。シェノンはこちらを見て意味ありげににっこりと笑っていたりする。アルスは頭を抱えたい気分だったが、そこでジェアが想定外にあっさり呟いた。


「それも一つの手だな」


 更にシオールも言ってくる。


「皆の緩んだ気を引き締めるためにもいいのではないですか」


――いやいや、それでもし被害なんか出たりしたらどーするんだよ。


 追い詰められているならリスク覚悟の強硬手段もありだが、現状そこまでの状況でもない。非戦闘員ばかりのこの集団で危険動物との戦闘なんて、避けられるなら避けたいに決まっている。


「……それにな、アルス。それを撃退することで皆の自信に繋がってモチベーションが上がるんじゃないかと思うんだ」


 ただジェアの続いたその言葉にはアルスにも思うところがあった。

 アルスは出来るだけ戦闘は回避する方向で考えているが、戦う役目の連中からすれば戦いがなさすぎるのも自分たちの存在意義が分からず不安になるものなのかもしれない。というか、正規の戦士連中がいない現状で内心不安な彼等からしたら、一度敵を撃退して皆を守れたという実績を作って自信をつけさせるのは確かにいい影響があるだろう。いくら訓練を重ねていても、実践で得た自信の方ががモチベーションに与える影響は大きい。勿論、調子にのる可能性もあるが……今回の状況だとそこまでの余裕はない筈だ。


 それに――アルスは皆から外れて取り巻き連中と話しているレガンを見た。今の彼はちょっと意地になっていて、こちらの訓練に加わろうともしない。まぁ彼の場合、ずっと仲間内で一番強いところを見せていた分、勝てないと分かってる相手との手合わせをしたくないのもあるのだろうが。


――実際、レガンは見習い連中の中では一番強い筈なんだよな。


 セルマは強さ的にも立場的にも別として、ジェアはレガンの方が自分より強いだろうと言っていたし、多分戦士以外ならシオールの次――大分落ちるけど――に強いのはレガンだろう。彼が戦闘だと割とちゃんと考えて行動する事も知ってる。

 アルスはまた、大きくため息をついてから口を開いた。


「そこまでヤバイ奴との戦闘はやめてもらいたいんだけど……」

「このへんに適度な奴がいればな。ただぬるすぎる敵では意味がないだろ」


 そらそうだろうけどさぁ――他人事のように冷静なシェノンを睨んでしまうのは仕方ない。


「よし、なら実行は明日か? 移動を考えるなら早い時間の方がいいだろ」


 ジェアはなんだか楽しそうだ。勿論皆声はかなり抑えているが、誰か他に聞いている者がいないかアルスとしては気が気ではない。


「それなら俺は、実行時には起きてるよう見張り役の時間を調整してください」


 シオールまでそう言ってくる辺り、彼もやる気だ。


「まぁまて、これから相手を探すなら明日は厳しいかもしれない。とりあえず明後日の朝としておいてくれないか」


 それにはアルスとジェア、そしてシオールがほぼ同時に聞き返した。そもそもどうやって敵を探すのだと。


次回はゼラ陣営、妹のエニの話。

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